「ヒロアカ史上最悪のヴィラン」僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト ピョンスさんの映画レビュー(感想・評価)
ヒロアカ史上最悪のヴィラン
本当にこれがヒロアカ最後の映画になってしまうのか……?
戦闘シーンは流石のクオリティ。
これまでの映画と比べても、群を抜いてエフェクト演出に凝っていたように思う。
多少のやりすぎ感を覚えなくもないが、前作の「分身シャドーボクシング」ほど行き過ぎてはおらず、ご愛嬌の範疇に収まるレベル。
今まで映画未登場だったキャラの出番もあった。
事件解決のMVPは間違いなくミリオ。
各声優の方々の演技も文句なし。
ジュリオ役の宮野真守さんはキャライメージにピッタリとハマっており、ダークマイト役/オールマイト役の三宅健太さんも、絶妙な演じ分けを見事に表現していた。
アンナ役の方に関しても、個人的には頑張っていたと思う。ゲスト声優としては及第点だったのではないだろうか(アニメ映画におけるゲスト声優への期待値が低すぎるだけかもしれないが)。
主題歌も良かった。
「ホムンクルス」の疾走感を活かしたOPには、大いにワクワクを掻き立てられた。
そう、OPの時点では。
ダークマイト。個性、錬金。
個性についてだけでも、ヤオモモの完全上位互換だとか、鋼の錬金術師だとか、映画1作目のヴィランと丸被りだとか、思うところはいくつもあるが、最大の問題はそこではない。
キャラクターとしての芯に、一貫性がなさすぎる。
壁中にオールマイトの写真を貼り付け、己の顔を変えるほどオールマイトに憧れている割には、オールマイトに「次はお前じゃない」と言われても、激昂するでもなく取り乱すでもなく「それならそれで別にいいっすよw」くらいのノリで終わる。
そのくせ顔を剥がされると「俺の顔がぁぁ!」と嘆き叫ぶ。
個人の力を至上として掲げ、ファミリーの部下をあっさりと切り捨て、「強さを以て次代の象徴になる」と標榜するが、作中で行うのは自分の更なるパワーアップではなく手下を増やすこと。
デクのことを「オールマイトが次を託した人間」だと見定めるも、嫉妬や怒りはなく、積極的に倒そうともしない。
つまりオールマイトなど本当はどうでもよく、ただ力を誇示したいだけなのかと思えば、「オールマイトの歴史は破壊すべき」的な理屈で雄英高校を襲撃しようとする。
信念や覚悟といったものを全く持たず、行動理念がブレブレのため、「オールマイトを継承したい」のか、「オールマイトを否定したい」のか、「オールマイトにこだわっている」のか「こだわっていない」のか、「どっちなんだい!」と叫びたくなるほどに、彼のスタンスが全く分からなかった。
これなら例えば、
「オールマイトを好きすぎるあまり、憧れの人に自分だけを見てもらうために、オールマイトの大切なものを破壊したい」
だとか、
「オールマイトなど実はどうでもよく、彼の知名度を利用して成し遂げたい真の目的がある」
だとか、
「オールマイトに恨みがあり、彼の姿で悪行を重ねることで、その名声を貶めたい」
だとか、いくらでも他にキャラ付けの方向性があったのではないか?と思ってしまう。
終始、私には「オールマイトそっくりの敵VSデクという構図を演出するためだけの適当な舞台装置」という以外に、ダークマイトというキャラクターを読み解けなかった。
あれだけ大々的に宣伝で持ち上げた今回の映画の目玉としては、余りにもお粗末だったと言わざるを得ない。
死柄木や治崎廻、ステインといった本編のヴィランとは比べるまでもなく、ナインやフレクトと比較しても格下の、ヒロアカ史上最悪品質のヴィランだったのではないだろうか。
ちなみに、お粗末と言えばダークマイトの素顔もお粗末すぎるモブ顔だった。どうしてもう少しそれらしいキャラデザにしなかったのか……。
ダークマイト以外についても、
・アンナがジュリオを好きになるのは理解できるが、ジュリオがアンナに好意を抱く理由については描かれない。顔なのか?
・ジュリオは「アンナの個性を抑えられないから殺すしかない」と言うが、どう考えても他にいくらでも手段がある(せめてプロヒーローであるイレイザーヘッドの存在くらいは調べて当然では?)
・ラストシーン、「お前は自由だ」と告げて立ち去ろうとするジュリオをアンナが引き止めるシーンがあるが、それまでの描写ではアンナがジュリオの人生を縛り付けていたのであり、2人の立ち位置が逆である
・幹部っぽい雰囲気で悠々と待ち構えておきながら、ロクに戦闘もせず退場する、存在意義の分からないコスプレヴィラン
・1度ジュリオに催眠を破られたにも関わらず、なんの対策も打たずに同じ轍を踏む、間抜けすぎる女幹部ヴィラン
・ダークマイト初見時、驚く様子もなく無反応のオールマイト(なにか因縁や心当たりがあるのか?と思いきや何も無い)
・「この先、個性が無効化される」と知っていながら、なんの対策もなく突入する葉隠さん(どうでもいいが、葉隠さんにはなぜか「さん」を付けたくなる)
などなど、ツッコミどころの枚挙に暇がない。
総評として、ヒロアカ映画4作目である本作は、
・派手で迫力のある戦闘シーン
・本編で描かれないキャラクターの共闘
・プロヒーロー勢、ミリオといった映画初登場キャラの活躍シーン
といった加点要素がありつつも、肝心のシナリオについては「ぽっと出の敵をサクッと倒すだけ」のおざなりなものであり、少なくとも私にとって、これは期待していたヒロアカ映画ではなかった。
ユアネクスト、「次は、君じゃない」。