恋脳Experimentのレビュー・感想・評価
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おそらく新しい試みのPFFスカラシップ作品
アニメーションで実績のある若手女性監督が、初の実写映画を撮ったとのこと。
PFFスカラシップ作品を観たのはかなり久々だったので、今どきの多様性を受け入れる時代に撮られたという意味では非常に興味深い作品ではあった。
アニメパートはほんの一瞬でした。
丁寧・かっちり。だからどうした?
恋に恋する乙女の成長と変化を、少女時代・学生時代・社会人のステージごとに見つめてゆく。短編アニメーションやMV・CMで活躍する監督の、初の実写劇映画だそう。
すぐに気づくのは映画作品としての手堅さ。カメラ・照明・録音・編集・色調整、どれもきっちりと適切適正にチューニングされているし、俳優の演出もおおむね破綻がない。劇映画の監督が初めてでスタッフと俳優との協働をこれくらいきちんとこなせるのは確かに一つの才能で、映画学校の修了製作としてみるなら、審査員の満場一致で満点をとることはまちがいない。
だけどさ、それがどうしたってことなんだよね。破綻がないかわりに、傑出・突出したところもまったくない。一応するすると最後まで見つづけられるかわりに、強く引きつけられるショットもない。専門学校の技術見本として作るもんなのか映画って。
それに良く撮れたシーンのほとんどが、監督が精密にコントロールしたからではなくて、技術スタッフに工夫してもらって撮ってもらった成果なのが丸わかりだったなあ。技術スタッフの創意を引き出すのは映画制作の前提ではあるが、それで喜んでちゃ本末転倒じゃないですかね。
あえて美点を言えば、俳優のさまざまな表情をとらえることに成功している。とくに主演女優(祷キララ)と男優二人(平井亜門、中島歩)はのびのび動いている。はげしい喜怒哀楽は出てこないが、そのあわいにある感情のこまかな動きが見える瞬間は多かった。これは撮影現場にそのようにコミットできた監督の手腕。ここはきちんと評価されていいと思う。
そしてキャラクター造形も、たとえば学習塾のヘンな教師とか、ぽちゃ顔の中学生とか、セクハラ体質のデザイナーとか、あちこち監督のこだわりを感じさせた。このあたりは確かに彼女のオリジナルな部分。
脚本は… 事務局の人は名言が多いとか言ってたけど、正直いってマンガとカラオケとTVドラマの言葉の集大成にしか見えないですねえ。
エンディングも、意味ありげなだけで結局つきつめて考えることを放棄してしまっている。思わせぶりなことをゲージュツと混同する演出は日本映画で長く長くつづく悪習で、こんなに若い監督にもその伝統は生きているんだという驚きがあった。
以上を要するに、きちんと手をぬかずに作られているし、TVドラマやマイナーな映画祭では十分に一角を占める作品ではあるが、監督がこの姿勢でのぞむかぎり、ここから先はどこへも行けない。そう感じさせる映画でした。
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