大いなる不在のレビュー・感想・評価
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素晴らしい映画でした!
夫婦どちらかがまだらボケになり、せん妄が現れ、暴言を吐いたり、暴力的になりして、認知症になってゆく。身の回りにあり得ることだ。他人事ではない目線で見ざるを得なかった。80を超えた藤竜也の演技も細部まで練られていて胸に迫るものがあった。そして、森山未來が変化してゆく様も自然体で描かれ、私が見た今年の上映作品の中では、間違いなく秀作だった。
複雑で緻密な構成にパズルのピースがハマっていくように愛情が浮かび上がって来る
なんと哀しいストーリー。子供の頃の両親の離婚を機に疎遠になった父へは、感心が薄い息子が、徐々に父へ愛情を感じていく様子がその行動から読み取れるように描かれている。少し複雑に見える時系列の描き方も、パズルがはめ込まれるように明確に事実を語るにはとても効果的で引き込まれる。徐々に痴呆が進んで行く過程で、愛情で記憶を繋ぎ留めようとしても、容赦なく進行していく様子がつらい。淡々と事実を確認していく息子の僅かな感情の揺れを森山未來は見事に演じている。それは藤竜也の説得力ある存在感があるからこその効果でもある。リアリティのある、そして感情を揺さぶられる作品だった。
父と息子の深い話
多くの人がイメージするインテリの嫌な部分(理屈っぽくて傲慢で、妙な拘りがあって…)を具現化したような学者である父親に子供の頃に捨てられた息子がその父親の半生を辿っていくという話。途中で父親と再会したときのやりとりなども、時系列を前後しながら描かれる。「自分を捨てたあなたが言うか」というような父親の無頓着な発言などもある。つかみかかってもいいような発言もあったが息子は良好な関係にある父と息子がそうであるように、それを普通に聞き流す。そして父親の再婚した妻も含めた交流を続ける。
父親には認知症の症状が現れ、病状は進む。身勝手ともとれる行動をいくつも起こし、身勝手ではすまされないような酷い言動を妻にはとってしまう。
認知症の悪化のために変わっていく父親に再婚した妻は身も心も傷つき離れていく(おそらく妻の妹が見かねて引き離したのだろう)。そして息子は残された妻の日記やその中にあった父親のたくさんの手紙を読み込み、父親が過去に訪れた土地にも行く。そして離れていった妻を探す。父親の生き様を丹念に丹念に追いかけて行くなかで、今ではボロボロになってしまった父親を理解していく。これは役者としての素養(感受性、人間への理解度など)のなせる業かなと思ったりもするが、息子の父親への理解、思いに嘘はない。
この息子を自分に置き換える。自分の息子に置き換える。父親をも自分に置き換える。この息子の豊かな感受性と懐の大きさに僕は感動してしまう。そしてボケたくないな(当たり前だね)。
俳優陣は良かった
父が父でなくなって初めて寄り添うことができた悲しみ
「永遠」 それが叶わないのは当然だったと改めて気付く
サスペンスと思いきや
どっぷりヒューマンドラマとして成立しているこの作品。
親子愛
夫婦愛
家族愛
見えない糸でそれぞれ繋がり人生が絡み合い
それぞれの理由
それぞれの愛情表現
それぞれの大事な物
そしてそれぞれが生きてきたこれまでの道徳。
認知症の描き方が絶妙で
外的な所動やわかりやすい描写に偏るのではなく
あくまでも本人自身の葛藤や、
それを取り巻く人々の困惑や悲しみ、
戻ることのない記憶への絶望を
感情のフィルターを通して映像表現されているのが
35mmフィルムでの投映も肉感的で
リアルに心を描いた説得力を感じた。
各々の過ごした時間は各々の時間軸で存在している
それが個々の人生そのものであり
その奥深い本質はその人だけが知っている。
その本意を知った時に真愛を知る。
とにかくキャストの皆様、天晴無敵です。
観た人それぞれ、感じ方が違うだろうなと確信する
演技の振り幅が観れて大満足。
本当に凄かったです
#近浦啓 監督
#藤竜也 #森山未來 #原日出子 #真木よう子
#三浦誠己 #神野三鈴 #利重剛 #塚原大助 #市原佐都子
壊れていく、残っていく、人の業
ちょっとわかりにくい…
静かな作品だけど、恐怖心が募る
大いなる不在、そしてそこには必ず存在がある
認知症を患う父親、その父親の人生を紐解こうとする長年会っていなかった息子の葛藤を描くドラマ。
藤竜也が、認知の混乱、題名通りの大いなる不在、そして存在を演じ切っており、その卓越した演技が圧巻。また主役となる息子役の森山未來の演技も秀逸。それを真木よう子、原日出子などのバイプレイヤーうまく支えている。
認知症という病に関する、本人と家族の辛さを押し付けがましさなしに、空気感で伝える巧みな脚本と演出。現代社会における認知症をテーマとした映画として高い完成度。
認知症が他人事ではない時代、そのどうしようもない状況における家族の存在の大切さ、その難しさについて深く考えさせる作品。
役者たちの素晴らしい演技、それを巧みに演出した監督に拍手したくなる映画だった。
大いなる心の不在。
私の心は私のものなんです。勝手に揺らさないでください。
見事な演技の応酬。雰囲気を作る間も、深みのあるセリフも、対峙する役者同志(藤竜也と森山未來だけでなくすべての)の空気感も、そしてその泰然たる存在も。
「存在」とは、肉体的、物質的な存在だけではなくて、精神的なものも含めてか。おそらく直美(原日出子)は、たとえ言葉がぞんざいであろうが傲慢であろうが、陽二の言動のなかに、かつて自分を愛してくれた彼の名残りがありさえすれば、支えていけたんだと思う。だけど陽二の「精神」のなかにもう自分が存在していないことに悲嘆した。だから大事にしていたノートも要らなくなった。バカバカしくなったんだろうな。ここが、後妻として熟年結婚した夫婦の限界なんだろう。それまでの自分の人生をなかば捨てるようにこの男と結婚したのに、まだ自分は元気で生きられる人生が残っているのに、その旦那は、こんな姿になってしまった。それだけでなく自分の存在さえも否定してくる。悪気はないのは分かっていても、糸がプツンと切れてしまう。彼とだけ繋がっていたたった一本の糸が。家族というものがあるにしても、もともと血のつながっていない関係だからもろい。いつまでたっても他人でしかない。現実でも僕は、そんな家族を間近で見ているのでよくわかる。ほんとうなら直美にとって、余生を送るために心の拠り所になるべき"我が幸せの証"であるノートを、放棄せざるを得ない心境とはいかばかりか。そんな彼女の現在を画面でどう映していたかが、「不在」の意味を一層深めているなあ。
ただ、気になったのはキャスティング。演技に難癖をつけるつもりはないけれど、どうしても年齢相応に思えない関係もあった。ちなみにあとで調べてみる(すべて現時点での実年齢)と、藤竜也84歳、原日出子64歳。若いころに出会ったってのは無理がないか。大学の教え子とすればあり得るが。息子森山未來39歳は、45歳の時の子となってまあまあ高年齢だけどここはまだあり得るか。だけど直美の息子三浦誠己48歳。いくつの時の子の設定?実年齢で16歳差しかないんだけど。直美は見た目が若いって設定なのかな。
演者が凄い、心が温かくなりました
大いなる何かを探して
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