「孤独とは、状況に対する感受性の違いによって生まれてしまうものだと思った」星つなぎのエリオ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
孤独とは、状況に対する感受性の違いによって生まれてしまうものだと思った
2025.8.2 字幕 MOVIX京都 Dolby Cinema
2025年のアメリカのフルCGアニメーション映画(98分、G)
孤独を感じている少年が地球の代表に間違えられる様子を描いたSF映画
監督はマデリーン・シャラフィアン&ドミー・シー&エイドリアン・モリーナ
脚本はジュリア・チョウ&マーク・ハマー&マイク・ジョーンズ
物語は、アメリカの航空宇宙局にて、叔母オルガ(ゾーイ・サルダナ)の目を盗んで「ボイジャーの展示室」に入る少年エリオ(ヨナス・キブレアブ)が描かれてはじまる
両親が他界して以来、心を閉ざしていたエリオだったが、ボイジャーが地球を離れてメッセージを発信し続けるのを知り、自分も宇宙人にメッセージを送りたいと考えるようになった
砂浜に「僕をさらって」と書いて、無線機で信号を送り続けるエリオだったが、それで何かが変わることはなかった
ある日のこと、オルガの職場に来ることになったエリオは、そこで通信士のメルマック(ブレンダン・ハント)が宇宙からの通信を傍受したと力説している様子を見てしまう
オルガは呆れて彼を通信室から追い出すものの、エリオはその隙をついて部屋に入り、スピーカーに向かってメッセージを発信してしまう
基地は送信電力によって停電となってしまい、オルガは定職寸前にまで追い込まれてしまうのである
物語は、その後に特に必要と思われないエピソードがいくつか重なったのちに、光に包まれて宇宙の彼方に連れて行かれるエリオが描かれていく
そこはコミュニバースと呼ばれる各星の大使が集う場所で、彼らはエリオを地球(ア地球)の代表だと思い込んでいた
エリオも居場所探しのために嘘を重ねるものの、コミュニバースでは新たな問題を抱えつつあった
それは、コミュニバース入りを望むハイラーグ人の皇帝グライゴン(ブラッド・ギャレット)の存在で、彼は審査に落とされると「実力行使で奪う」と宣言し、大軍を引き連れて、コミュニバースを征服しようと動き出してしまう
これによって、大使候補選別の会議は中止されてしまうのだが、こともあろうにエリオは「自分が交渉する」と言い出し、大使たちはエリオが問題を解決したら大使にする、と明言するのである
映画は、エリオがグライゴンとの交渉に入るものの、役に立たずに投獄されてしまう様子を描いていく
そこで、グライゴンの息子グロードン(レミー・エジャリー)と出会うのだが、実はここら辺が映画の中盤に差し掛かったあたりだったりする
なので、いつになったら出てくるんだろうという感じになっていて、話がなかなか進まないように思えた
さらに、当初の設定は母親だったオルガが叔母になっているところで、本来なら描かなければならない部分がおざなりになっていた
それは、エリオと叔母がどれくらいの期間を過ごしてきたのか、というところで、それは両親がどうやっていつ頃亡くなったのか(おそらく両方宇宙飛行士で事故死)という背景についても関係している
オルガはエリオのために自分の夢を諦めているところがあるのだが、それがエリオに伝わってしまっているところで軋轢が生まれていた
だが、映画の中盤では「まるで育ての親」のようにエリオへの愛情を示すことになっていて、この一連の感動的に思えるセリフに説得力がなくなってしまっている
同僚たちにグチるくらいには重荷になっていることを考えると、ラストのエリオがコミュニバースに残りそうになる時にあんな表情にはならないだろう
なので、当初の設定の通り、母親のままで、父親が亡くなったことで険悪になっている、という設定の方がマシに思えるし、ラストのオルガの表情を生かしたいのなら、物心ついた頃に両親が事故死し、かなりの年月をエリオに費やしてきた、という歴史を描く必要があったように思えるのである
いずれにせよ、ベッタベタな王道展開で、サプライズというものはないのだが、ラストで語られる「個性的な人は孤独を感じることもあるが、ひとりじゃない」という言葉は秀逸だと思った
孤独とは、共感性の低さと関連すると思うし、その能力が別の方向に全振りしている、もしくは優先順位が下がっているから起こってしまう
エリオは自分の気持ちは誰にもわからないと感じていて、それはグロードンも同じだった
そこには「両親を亡くした子ども」と「外界から閉ざされた王子」という絶望的な背景の差があるものの、親と接する時間の欠如、思いを分かち合う友人がいないことという心が感じる根幹は同種のものがあった
本当に全てが重なることはないのだが、相手の心のうちが想像できるというのは、状況が同じということではなく、起きていることに対する感受性が同じ、というところにつながっている
それゆえにエリオはグロードンと分かり合えるし、オルガの孤独は癒やされないまま終わってしまう
ハッピーエンドに見えるものの、オルガの本当の孤独というものは埋められていない部分があるので、それで物語を終わらせてしまっているのは勿体無いなあと感じた
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