「怖い霊ではなく…」TALK TO ME トーク・トゥ・ミー SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
怖い霊ではなく…
すごく面白かった。
ハリウッドのパターン化されたホラーじゃなくて、ちゃんとアイデア勝負になってるところが良かった。
「世にも奇妙な物語」をすごくちゃんと作った感じ。
ジャパニーズ・ホラー的な、主人公の心情や精神性を深く掘り下げた物語になってるところも良かった。
ただ、「怖く」はない。正確に言えば、霊とか心霊現象に対しての恐怖感はほぼ無かった。その点ではホラー映画に対する期待どおりというわけではなかった。
ショックを受けたのは、弟くんが自分で激しく頭を打ち付けたり、自分の目玉取り出そうとしたりするシーン。あまりに痛そうで「ぐあああ~!」と悶絶してしまった。でもこれは霊に対する恐怖では無い。
霊が物理的な実体や力を持ってないのに主人公たちを攻撃している描写がうまいと思った。一見、霊はドアを開け閉めしたり、ものを破壊したり、主人公に暴力をふるっているように見えるが、実はそれは主人公の頭の中だけで起こっている。そして、主人公自身に彼女の大切な人を攻撃させる。
Talk to me というのは、霊とアクセスする文句であると同時に、主人公の心の弱さを象徴する言葉でもあるんだろう。主人公は、友達、友達の弟、元彼、そして死んだ母親と話したがっている。病的な寂しさを心に抱えている。そのせいでウザがられたりもしている。でも、一番話すべき相手である父親には心を開けない。
友達の弟に降霊を許してしまったのも、弟くんのことを真に思いやっての行動ではない。自分が嫌われるのが怖かったからだ。
主人公はこういう心の弱さを徹底的に悪霊につけこまれる。「母親は自殺した」という父親の言葉を信じるよりも、「それは嘘だ」という霊の言葉を信じてしまった。「信じたくないことは信じない」という心の弱さにつけこまれた。
最後、弟くんを殺すのではなく、自分自身が道路に飛び出したのは、どう解釈できるだろう。最後の最後に、主人公が正気になれて、かろうじて自分自身が飛び込むことで弟くんを助けることができたのか? それとも、霊がねらっていたのははじめから弟くんではなく、主人公だったのか?
主人公が死んで霊になったあと、知人の誰からも認識されない、という究極の孤独の地獄の中で、唯一見えた希望の灯りが、件の降霊会、というオチが秀逸だと思う。ありがちなオチのようだけど、主人公の寂しがりの性格はこのオチのためのものだと思う。これまでの降霊会で、霊たちがいったいどんな気持ちで生者の前にあらわれていたのか、共感できてしまう。
物語の中盤までは、「霊は何を考えているか分からない、危害を加えてくる怖い存在」だったのが、この最後のオチで、「どんな手段を使ってでも生者にすがろうとする、哀れな存在」に変わる。
安易なハッピーエンドにしなかったのも良かった。最後の最後で母親の本物の霊が娘を助けた、みたいにしがちだけど、そうならない方がいい。主人公は大事なところで常に、生者の言葉ではなく、死者の言葉を聞こうとしたり、聞いてしまったりしていた。その顛末はアンハッピーエンド以外にはない。
「霊の立場からの世界」というので連想するのは、山岸凉子のホラー作品。特に「化野の…」とか。主人公がとりわけ悪人というわけではないのに、惨いことになる理不尽さもなんか似てる。