市子のレビュー・感想・評価
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市子のアイデンティティー
この作品は、主人公のアイデンティティと素直な自己表現を、映画を通して人々に問いかけている。「あなたは彼女の生き方に何を感じた?」 市子のあの黒い服は、心の闇を表現しているのではなく、裁判官と同じく「私は何者にも染まらない」という決心の現れなのではないだろうか。決心したとき着る服なのだ。 汗が滴り落ちる暑い夏が、年代問わずに同じように背景にある。朦朧とする思考… 市子の鼻歌は、月子の人工呼吸器を止めたとき、無意識に母のした鼻歌だった。 限界からの開放… 「ありがとね」思いもしなかった母の言葉 無戸籍だから小学校にもいけない市子と戸籍はあるけど筋ジストロフィーで寝たきりの父親が違う妹月子。 そして3歳遅れで「月子」の戸籍を利用して入学したのは、母の知恵だったのだろう。 この物語は細部や結末まで描かれていない。そして、この物語がどこへ向かうのかも描かれていない。視聴者が自分で感じて考えるのだ。 私は月子ではなく市子だ。これが彼女の心の叫びとなり変化のきっかけとなる。 多くは、どうしようもなくなって、そうしていわゆる「犯罪」は起きるのだろう。 そのある種の狂気を暑い汗の滴る暑い夏に乗せている。 母は2度目の離婚で、生計のためにスナックで働く。離婚が、幸せな日々を奪ったのだろう。長谷川が見せた家族写真を奪い、胸に押しつけて涙する母のシーンは、振り返ってみればあの時が一番幸せだったことを伝えている。 どれだけ振り返っても返ってこない過去。母が感じている犯してしまった数々の失敗と隠し通したい犯罪。彼女の思いは至極一般的で、だから徳島の小さな島に移住したのだろう。罪悪感と後悔が彼女を包みこんでいる。 でも市子という人間は彼女とは違った。市子は勇敢で積極的で恐ろしく狡猾だ。北に対し「何を思ってもいい」というシーンがあるが、これこそが市子の心の声だ。だから私の思ったとおりに生きてゆく、のだろう。 市子は貧困で無戸籍であるにも関わらず、彼女を放ってはおけなくさせるオーラが、彼女の人生の時々で友人となって現れるが、北のように窮地を救うものが今度は市子を困らせる役となる。 そして婚約者の長谷川もまた、北と同じように彼女を追いかけることでこの物語が紡ぎ出されていく。 市子の母が長谷川の乗るフェリーに深々と頭を下げるのは、「娘をよろしくお願いします」という意味だろう。それが彼女の清楚な服装に現れている。 長谷川は、刑事からの電話に出なかったように、今後も出ないだろう。 市子という人間の過去を知り、その人生に同情と共感で泣いたところで、本当の彼女を知ることはできない。彼女は常にその先へと動いているからだ。 長谷川は、どこかで北の事故死を知るだろう。その時彼は初めて市子という人物を知ることになると思う。 彼女にとって一番いいのが、母が言ったように追いかけないことになる。 そうして長谷川は彼女をリリースすることができて初めてこの問題に決着できると思われるが、盲目になってしまえば… この作品は、人が犯す犯罪というものの視点ではなく、どうにもならない運命でもなく、社会や法律や恋人よりも「私」という存在が一番上にあるのだということを見る人に伝えたかったのかなと思った。 犯罪とかではないが、市子のように常に自分が一番上に立った物の考え方は、私は正しいと思う。
面白いんだろうけど
視聴中はスマホをポチポチ触ってしまったため、ストーリーがよくわからなかった。 時代が前後していく展開は集中して見ないとわからなくなってしまう…。 見終わった後にネタバレサイトで改めてストーリーを見ると、かなり面白い作品だったんだなと感じた。 映画館で見るべき映画だったと後悔…。
相手を諦めないということ
上映最終日の滑り込み。 観てよかったと心から思う。 BGMもほとんどなく淡々と進んでいく時間。恐怖や哀傷、さまざまな痛い想いをする映画だった。 時系列をわかりやすくさせるためでもある日時について、迫真の演技力により私自身が何かの記録を再生しているようだった。夏のじめっとした空気がより一層生々しさを感じさせた。 私は、助ける・守るといった無責任なことを口に出せる人間ではない。立場が、生まれが、境遇が違うから、いろんな理由を探して踏み込むことをやめてしまう。 しかし、若葉さんを観て共に過ごした幸せの時間があるならば理由などどうだっていいのだと思えた。
演者は素晴らしいのだが・・・
願ったわけではない環境や背負わざるを得なかった 深い業がつくる闇に翻弄される人生が描かれる わけですが・・・。 なんだろうな、全体的に 「こういう境遇だからこうなるよね」 「こういう背景があるからこうなっちゃうよね」 と少々乱暴な展開と描かれ方をしている気がしました。 夢見つけたり、小さな幸せを見つけそうになるのも 全て梯子を外すために用意したものなんじゃ?って 思っちゃいたくなります。 市子の気持ちをもっともっと丁寧に描いてほしかった。 彼女の葛藤、心の揺らぎはもっともっと表現できた のでは?最後まで市子の気持ちに寄り添えなかった。 演出上の問題というか、僕の理解力が乏しく わかることができなかったのが、市子の決定的な行動が いつ行われたことなのか?がわからなかったのです。 演出上、時間軸や視点をころころ変えているのですが、 一番のキーポイントである市子の行動が何歳の時だったのか がよくわからないので、物語のピースがばらけたままで 終わっちゃったんですよね。 演者さんたちが熱演されていたので非常に残念な 一作でした。 あと、答え合わせ的なエピローグはいらなかったなぁ。
かわいければ何でもOKという者も一定数いるということ
メンヘラ女とそれを取り巻く者の話。サスペンス。 雰囲気表現のみで完結するため物足りなさが残る。 良い点 ・演技 悪い点 ・申し訳程度に年月が表示されるが、時系列が分かりにくい。 ・髪がやや薄い その他点 ・その後法廷で遊ぶ
生い立ちが分かったあとの絶望が…
いわゆる失踪した人が正体不明の謎の人だったという展開。 映画ではままあるパターンではあるが、個人的には同様の映画の中で今作が一番好きかもしれない。正体を隠すならこれぐらい激重の人生じゃないとね… 市子の行動の謎が関係者を通じて、徐々に明らかになる展開がうまかった。 終盤、車から発見された二人の遺体とか、月子とのやり取りとか、その辺りはもっと見たかったな。 登場人物がリアルに描写されていて、特に北君の親切ウザい感じは秀逸だった。市子の北君へのあしらい方もリアル(笑) 最終的に明るい展望のないまま終わるのも、この作品に合っていると思う。 最後は市子ーーー!って叫びたい。 余韻が凄い。
「傑作の中の傑作」
今年15本目。 こう言う作品見ると本当に映画好きで良かったなあと。それと共に杉咲花、若葉竜也、森永悠希がこんな素晴らしい演技しているのだから自分も何かできないかなと。昨年12月の前澤友作さんの「僕が宇宙に行った理由」でもあったように身近な事から大切にしたい。 ゆっくり流れる作品がお気に入りでその2時間映画に没入しているのが心地いい。サスペンスタッチで謎解きの感じがいい。杉咲花さんは「メアリと魔女の花」の時からずっと好きで志尊淳さんとの新作も楽しみ。
高校の時に付き合ってた彼にも、長谷川くんにも、市子は自分の秘密をひ...
高校の時に付き合ってた彼にも、長谷川くんにも、市子は自分の秘密をひた隠しにする。 背負っているものを横に置いて、普通の、一人の女の子として、恋をしていたんだろうな。 鼻歌で歌われるのが印象的な『にじ』 きみのきみの気分も晴れて … きっと明日はいい天気 犯した罪(動機がだんだん軽薄になっている気がした)を抱えながら、それでも本当にいい天気の明日が市子にくることを、願ってやまない。
散漫
予告編はかなり既視感のあるものだったが、 だからこそどう落とすのか気になって足を運んだ。 だが、早々にほぼ結論ありきでサスペンス性は乏しく、 想定を超えるような展開はほぼなかった。 また、各々のエピソードに深みがなく、 十分に咀嚼しないままで回収されずモヤモヤが残った。 ラストも然り、こういうのがゲージツなのだろうか。 さらには杉咲花の熱演には魅入られたが、 違和感や稚拙さを感じてしまう共演者も散見され、 映画に没入できない要因のひとつとなった。 これらが相俟って少々ウトウトしてしまう場面もあった。 映画とは関係ないが、 派手さのない作品のせいか観客がすべて中高年のお一人様だった。 整然と適度な間隔を空けて席を取り、 上映中はもちろんその前後もほぼ余計な物音はなく、 エンドロールが終わって明るくなるまで誰一人席を立たなかった。 実に理想的で快適な空間だった。 観賞者たるものかくありたいものよと映画より感銘を受けた。
怖くて不気味な映画
もっとハッピーな映画かと思ったけど なんか次どうなるのか?どんなシーンがでるか、おそるおそる見た感じ。 杉咲花はいままで可愛らしいそんな役しか見てなかったので、ちょっと怖かった。 ただ、あっというまに、次どうなるかって見ているうちに終わってしまった。 最近ではないタイプの映画だった
昔のATGを好きだった人には嵌る作品
自主映画に近い制作スタイルなのが成功の要因。監督が脚本演出編集など全てをこなして作り上げた。まぁ〜誰もがこんな風に出来たら良いなぁ〜と思う映画作りですが、それを成功させる説得力のある映画は滅多にありません。 杉咲花の演技はATG映画「もう頬づえはつかない」の桃井かおりを彷彿させる演技でした。 元は2015年の演劇だと言うことで監督としての真っ直ぐな取り組みが成功させてるのでしょう。
市子が悲しくもたくましく、なんだか惹かれる存在で印象に残るキャラク...
市子が悲しくもたくましく、なんだか惹かれる存在で印象に残るキャラクターだったなと思う。ちょっと男目線でみると女々しい人達が多めで、もっと市子に負けない人も出てきて欲しかった。
ストーカーとは何か
2023年。戸田彬弘監督。結婚を決めた翌日に失踪した女性を巡り、婚約者の男がその行方を追いながら過去の事実に迫っていく、という話。離婚後300日問題(無戸籍児問題)と難病児介護問題を合わせた社会派ドラマで、「実は二人だった」型のミステリー仕立て。 気になったのは作中に出てくるストーカー。高校時代から女性を想い、殺人事件にまでかかわる男は「俺だけがお前を守れる」というあたりで支配的指向の持ち主であり、助けること=自分のものにすること、という思考で女性を執拗に追いかける。一方で、婚約者の男も警察と駆け引きまでして女性を追いかける。たしかに、支配的指向があるわけではなく、助けること=彼女に生きてほしい、という思考であるが、3年間一緒にいながら彼女のことを何も理解していなかった自分の過去に向き合うことである。ここにおいて彼女は彼の思考の手段であり、ネタである。こういう考えで追いかけることはストーカーとは言わないのだろうか、という疑問がふとわいた。
演者やそのパフォーマンスはいいけれど…
内容そのものが、ちょっと…ダメでした。時を交錯させて、ときに混乱させるような巧みな構成なんかも面白いなぁと思いましたが、味噌汁のにおい?とか、ガラケーの持ち方・・・とか、たばこ?とか、自殺志願?とか、スルーしてもいいような細かなところが気になってしまった気がします。結構些末な事柄でも気になるところが多ければ本筋にも大きく影響して来るものですよね。確かに背後についてある事柄は気になりましたが、物語の結果を求めたいような作品ではないと勝手に感じ取ってしまったので、流れを妨げるような気になる演出がまさに気になりました。
圧巻の演技
以前から良い女優さんだなぁと思っていた杉咲花さん、この映画を見て圧巻すぎて大女優さんになること間違いないと確信しました。 市子の半生が紐解かれていくストーリー展開なのですが、他に方法がなかったのか?周りの大人の勝手さにイライラしつつ、市子の思いに感情移入してしまいました。とにかく何か切ない、やり場のない怒り?みたいな感情。 社会問題的な要素もある映画です。 市子は犯罪者なのかもしれないけれど今後の人生、少しでも幸せに生きてほしいと願ってしまいます。
よってたかって虎にしたのか
まず、杉咲花さん。11月の某映画のレビューでは酷評してしまいまいしたが、監督が違うとこんないい芝居のできる役者さんだったんですね。ごめんなさい。 シチュエーションは異なるけど、ブラックラグーンの名エピソードのあのセリフを思い出しました。 「誰かが、ほんの少し優しければあの子たちは−−学校に通い、友達を作って、幸せに暮らしただろう。でも、そうはならなかった。ならなかったんだよ、ロック。だから−−この話はここでお終いなんだ」
悲しきファムファタール
時制を交錯させながら市子のバックストーリーを紐解いていく構成に引き込まれ、最後まで緊張感が途切れす面白く観ることが出来た。 物語は失踪した市子を追いかける長谷川の視点で展開されていく。市子の過去を知る関係者を訪ねながら自分の知らない彼女の秘密を知っていく中で、彼女がなぜ失踪しなければならなかったのか?その理由が徐々に判明していく…というのが大筋である。 総じてよく練られた脚本だと思うが、過去編の伏線が後半の現代編で回収されていく構成は、ドラマがシンプルな分、やや安易な答え合わせに終始してしまったかな…という印象を持った。これなら現在の時間軸でそのまま描いても良かったのではないだろうか。 尚、”ある事件”の参考人として市子を追いかける刑事が登場してくるが、これによって物語にサスペンス的な要素が加味されていくようになる。これについては上手くいっているような気がした。 聞けば本作は元々は舞台劇だったということである。現在と過去を複雑に往来する本作が舞台劇でどのように上演されたのか気になる所である。映画版を観る限りあまり舞台劇には向かない内容だと思うのだが、そのあたりはどうなっているのだろうか。舞台版は未見なのでよく分からない。 それにしても、本作は誠に強烈な快作…ならぬ”怪作”と言える。 映画を観終わって真っ先に思ったことは、これほどバケモノじみたファムファタール映画もそうそうない…ということである。それくらい市子のしたたかにして大胆不敵な行動には戦慄を覚えてしまった。 しかも、彼女は悪女と言うには余りにも悲しき運命を背負った女である。その出自を知ると同情も禁じ得なかった。 映画を観た後で知ったのだが、市子のような境遇の人間は実際に世の中には結構いるそうである。自分はこの事実を知らなかったので、本作を観て少しだけ調べてみたが、これは法制上の問題に関わってくるので中々一筋縄ではいかない難題のようである。一応、今年の4月から制度が変更されるそうだが、市子のような人間がこれ以上生まれないことを願うばかりである。 市子を演じた杉咲花の好演も素晴らしかった。基本的には”低体温”な演技を貫いているが、要所で苦しみ、悲しみ、怒りをダイレクトに表現し、その迫力には圧倒されるばかりである。そして、そんな彼女が少ないながらも劇中で笑みをこぼすシーンが幾つかある。悲壮感が漂う中、そこだけは救いだった。 一方、映画を観ていて若干分かりづらい部分があったのは残念だった。 例えば、市子の母親は水商売をしていて複数人の男が部屋に上がり込んでくる。詳しい説明がないまま入れ代わり立ち代わり登場するので、観てて少し混乱してしまった。 演出面の不満も幾つかあった。一つには、演技が過剰に映る場面が一部で見受けられたことである。どちらかというと本作の杉咲花はリアリズムを重視した演技に徹しており、それとのバランスで見るとどうしても違和感を覚えてしまう。 終盤の市子の母親の丁寧なお辞儀もその心情を察すれば理解できなくもないが、むしろ無い方が彼女のキャラクターとしては一貫しているような気がした。
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