劇場公開日 2023年12月8日

「人生で一番幸せな味は…。」市子 ななやおさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5人生で一番幸せな味は…。

2024年3月13日
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鑑賞方法:VOD

泣ける

悲しい

観たかったけれど、近くの映画館でやっていなかったので見逃してしまった作品が、Amazonプライムに登場していたので、さっそく鑑賞。劇団チーズtheaterの旗揚げ公演作品、舞台「川辺市子のために」を映画化したという変わり種の映画作品。

2度見返しての感想を書きます。
この映画を見終わって、真っ先に思い出したのが、渡辺和子さんの「置かれた場所で咲きなさい」という本。
『置かれたところこそが、今のあなたの居場所なのです。咲けない時は、根を下へ下へと降ろしましょう。次に咲く花が、より大きく、美しいものとなるために。現実が変わらないなら、悩みに対する心の持ちようを変えてみる。いい出会いにするためには、自分が苦労をして出会いを育てなければならない。
心にポッカリ開いた穴からこれまで見えなかったものが見えてくる。希望には叶わないものもあるが、大切なのは希望を持ち続けること。「ていねいに生きる」とは、自分に与えられた試練を感謝すること。』だとこの本は教えてくれます。

プロポーズをされても、戸籍がないから書く名前がなくて心から喜べない人を実際に私は知らない。けれど、世の中にはそんな不遇な境遇に苦しんでいる人ももちろんいるのだとは思う。この映画が伝えたいのは、そういう不遇な境遇の人たちのどうにもならない生き方だけなのだろうか?
市子の母の「幸せな時もあったんよ」という言葉が耳に残る。終始不遇な境遇の中にあっても、市子にも幸せな瞬間はいくつかあった。友達の家でケーキをお腹いっぱい食べたあの日。将来一緒にケーキ屋さんになろうといってくれた友だちがいたこと。そしてその夢を実現しようとした日々があったこと。そして一番の幸せは、やはり彼氏となる長谷川との出会いではないだろうか。一緒に暮らし始めた時より、浴衣をプレゼントされた時より、プロポーズされた時より、一番の幸せだった瞬間は、彼と一緒に焼きそばを食べたあの瞬間ではなかったかと思う。永遠に続かないことを知っているからこそ、始まる瞬間がマックスである市子の幸せ。あとはいつか失うことを恐れながら暮らす日々であるから。

願わくば、ラスト歩き出した市子のその先に彼との再会があり、彼女が逃げることをやめて、己の不遇をまっすぐ受け入れた時、その痛みの先には、きっと彼とのささやかな幸せが待っていると信じたい。

ななやお