「2015年、関西のとある平凡な町に暮らす20代後半の女性、川辺市子...」市子 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
2015年、関西のとある平凡な町に暮らす20代後半の女性、川辺市子...
2015年、関西のとある平凡な町に暮らす20代後半の女性、川辺市子(杉咲花)。
恋人・長谷川義則(若葉竜也)からプロポーズを受けた翌日に突然失踪した。
長谷川とは、3年間一緒に暮らしてきた仲だった。
しばらく後、途方に暮れた長谷川のもとに後藤と名乗る刑事(宇野祥平)が現れた。
別の事件の関係者として市子を捜しているという。
質問する後藤に対して、長谷川は市子の過去はあまり知らないと答える。
過去についてはあまり語りたがらなかったからだ。
そんな長谷川に後藤は衝撃的な発言をする。
川辺市子なる女性は、どこにも存在していないのですよ・・・
といったところからはじまる物語は、過去の時間軸が交錯しながら、川辺市子と名乗る/名乗った女性の過去、アイデンティを探っていく。
ある時は月子と名乗っていた市子。
何人かの証言で、そこへ辿り着く。
その理由は・・・
と明らかになるところで終わるのが「普通のミステリ」なのだが、映画でその理由が明らかになるのは中盤。
いわゆる、謎解きのカタルシスを超えて映画は市子のアイデンティティに迫っていく。
何人かの証言、いくつもの事件・・・
それらを通して見えてくる/見えてこない市子のアイデンティティ。
世間の枠組み、社会のシステムからはみ出してしまった/しまわざるえなかった存在を救う網はなかった。
セーフティーネットはなかった。
だれかの好意、だれかの愛情は彼女を安全な場所には導かなかった。
社会上どこにも存在していない市子は、それでも生き続けて、存在し続ける。
市子=イチコ=一子=ひとりの人間として。
市子を演じる杉咲花は、一個の人間としての凄みを感じさせる演技。
そして、彼女を取り巻く青年/少年を演じる、若葉竜也、森永悠希、倉悠貴の若手男優も素晴らしい。
刑事役の宇野祥平、母親役の中村ゆり、母の交際相手の渡辺大知ら、中堅俳優も素晴らしい。