「粗はあっても演技で持って行く力技」市子 kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
粗はあっても演技で持って行く力技
杉咲花という女優は、結構小さいときからテレビで見ていた記憶がある。子役あがりとまではいかないけど、それに近い印象。だから、大人の女性として恋したりセックスする役柄を演じているのを観ると複雑な気持ちになる。娘が(いたら)彼氏といちゃついているのを見てしまったときにこんな感情になるのかもしれない。
本作ではプロポーズされた翌日に失踪する市子を演じている彼女。穏やかな話し方で家庭的だった印象が、過去のエピソードとともに徐々に塗り替えられていく。なかなか壮絶な人生。でも、周りに振り回されながらも自分の人生を生きようとする姿がとても清々しかった。たとえ許されないことをしていたとしても。杉咲花だから醸し出せる雰囲気かもしれない。北くんのように魅了されて人生を狂わされてしまうのも少しだけわかってしまった。
杉咲花だけでなく、他の俳優たちもとても上手なので、あの世界観につい引き込まれてしまった。自分があの世界で疑似体験している気分。刑事が聞き込みに一般人(しかも重要参考人の恋人)を連れて行くわけがないといった脚本上の粗があったことはたしか。でも、そこまで嫌悪感を覚えるものではなかった。元々は芝居の脚本なら、そんな展開もあり得るかと妙に納得する。ただというか、だからというか、スッキリする終わり方ではない。観る者の判断に委ねる部分もかなりある。とてもつらいことが待ち受けている予感はあるが、市子の未来に少しでも幸せがあればと願うだけだ。こんなことを感じてしまうのだから完全に世界観に浸っている証拠。
杉咲花の女優としての凄みを存分に感じることのできる本作。確実に彼女の代表作の一つになるばだ。
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