劇場公開日 2023年12月8日

「「長谷川さんこれ誰なんですか?」「市子です。」「そりゃどうも。存在せえへんのですよ。」」市子 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5「長谷川さんこれ誰なんですか?」「市子です。」「そりゃどうも。存在せえへんのですよ。」

2023年12月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

訳あって、なりすます物語。最近だと「ある男」とかと同類の物語。共通するのは、なりすました人間が悲しいサガを抱えていること。自分自身では抗えない人生を生きてきたこと。そして、そんななかでも幸いなのは、わずかでも味方になってくれる人間がいたこと。そして、残念なことに、なりすました人間は結局幸せをつかむことができないこと。

「みそ汁の匂い。幸せそうな匂い。憧れの匂い。」

「うちな、花火好き。」
「嫌いな人おらんで。」
「でもな、みんなが上見てるとき、うち安心すんねん。」

「最高や。全部流れてしまえ。」

なりすましと分かったうえで頭から見ていれば、市子のひとつひとつのセリフが全部フラグになっている。初めから人生を諦めてる市子のテンションは終始低く、ときに夢を見る気持ちが芽生えたときに見せる笑顔が反動で切なく見える。その絶妙な熱量を杉咲花が好演している。長谷川役の若葉竜也もよい。二人ツーショットの写真が飾られている本棚には、サニーデイのCD。そのセンスがまた、いい。

ただ、北君と自殺志願(?)の女はなぜああいうことに?市子がそうしたのか?もしくは、市子を守るために二人がその行為を選んだのか?それによっては市子に対するこちらの気持ちはずいぶんと変わってくるな。
ふと思う。世の中、これだけの人が生きている。例えば年間自殺者の数はかつては3万人といわれた(近年は若干減少したようだが)。そこに意識が行きそうだが、じつは失踪者の数においては8万人ちかい。その8万人がすべて自分の意思で消えたわけではないだろう。何人か、いや何割かはこれと似た状況での失踪(市子だけでなく、北君や自殺志願者含めて)であると思えなくもないな。

栗太郎