劇場公開日 2023年12月8日

「がっつりミステリーな本作」市子 TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0がっつりミステリーな本作

2023年12月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今ではすっかり死語と化した「親の七光り」という言葉。尤も、芸能界と言われる「業界」にも多くのカテゴリーが存在するし、変に印象をつけられないために芸名を変えたり、プロフィールをぼかして紹介する事務所も多いようです。そして、今作の主演である杉咲花さんも私の世代なら知る人の多いギタリスト木暮"shake"武彦氏の娘さんですが、私自身がそのことを知ったのは彼女が活躍し始めてしばらく経ってのことでした。勿論、それを知ったところで特に印象は変わらないだけの実力とパーソナリティのある女優さんです。子役の頃の活躍こそ知らないものの、最初に目に留まったのはTV CMの「Cook Do(11-17)」、そしてテレ東ドラマ『なぞの転校生(14)』、さらに映画『トイレのピエタ(15)』『湯を沸かすほどの熱い愛(16)』など、タイプの違う役柄を次々とこなし、そのクオリティが高いことから私にとって気にならざるを得ない、存在感の大きい俳優さんの一人です。
いつもの如く「前置き」が長くなっておりすいません。
まだ今年観た映画をきちんと振り返ってはいないのですが、本作における杉咲花さん、おそらく年末年始の賞レースで最優秀賞主演女優賞を多く受賞すると感じさせるだけの名演だと思います。個人的に、彼女の「感情高ぶった演技」が好きなのですが、本作においても「突然の雷雨」のシーンなど最高でした。惜しむらくは、彼女が演じる主人公「市子」はアバンタイトルで失踪、その後しばらくは「過去」を回想するシーンが続くため案外前半は出演シーンが少ないこと。まぁ、それを補って余りある「市子」の想像だにしない人生を知りながら観る杉咲さんの演技に、「それだから…」と説得力を感じさせる表情や雰囲気に唸るものがあります。
それにしても、近頃にしては案外珍しいくらいがっつりミステリーな本作ですが、きちんと現代における「社会問題」をベースにして作られており、ストーリーとして大いに見応えがあります。監督自らが原作した戯曲だそうですが、どれだけ映画としてのオリジナリティがあるのか。舞台と映画における題名の変化は、トータルにおいて「バランス」の変化が影響したのかなど気になります。そして、映画の終わらせ方はそっちで来たか、と思いつつ、エンドクレジットの後ろで聞こえてくるのはもしや「幸せだったあの頃?」と思える家族の声にまたザワッとします。
助演の皆さんも総じて素晴らしいわけですが、特に宇野祥平の配役は大当たりかな、と。と言うのも劇中、宇野さんが演じる後藤刑事は「刑事がそんなことする?」という、物語の展開に大きく影響することをしでかしつつ、その後のフォローもしないという暴挙(笑)なのですが、宇野さんの醸し出す人間味あふれる雰囲気で何となく許せるから不思議です。
とまぁ、ツッコミどころがないわけではないながらも、昨今の邦画に多い「伏線回収」的なギミックで胡麻化さず、堂々たるミステリーとなっており、「人はなぜそれを犯すのか」を考えさせてくれる良作です。観る価値あり。

TWDera