「タイトルは車ではなく血筋のこと」フェラーリ kozukaさんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルは車ではなく血筋のこと
「フェラーリ」というタイトルを見て誰もが思うのは車のフェラーリのことだろう。
もちろんこの映画の見どころはレーシングカー、フェラーリのレースシーンではあるが、この映画の主題はフェラーリを創業したエンツォ・フェラーリの妻、愛人、息子の姓をめぐる物語だ。
1957年フェラーリ社は資金難で破産寸前。郊外の公道を走り抜けるレース、ミッレ・ミリアに社運をかけ準備をしていた。
エンツォ(アダム・ドライバー)には妻であり共同経営者のラウラ(ペネロペ・クルス)に息子のアルフレード(ディーノ)がいたが、息子は難病で亡くしていた。息子の死とレースに心血を注ぎ家庭を顧みないエンツォとラウラの夫婦仲は冷めきっていた。
一方、戦争中に知り合ったリナ(シャイリーン・ウッドリー)との間にピエロという息子が誕生していて、ラウラに知られないように母子とも時を過ごしていた。
イタリアが舞台ということもあるが、ゴッドファーザーの血筋の話をフェラーリ家に置き換えたような重厚さがある。
共同経営者でもある妻と愛人、亡くなった息子と隠れたように暮らす息子。
フェラーリの姓を継ぐものは誰なのか。
中盤、オペラ「椿姫」にフェラーリ家を重ねるシーンがあるが、画面の陰影、美しさ、舞台の重厚感はまるでイタリアンオペラ。
もう一つの見どころであるレースシーンは当時のフェラーリのレーシングカーを3Dプリンターで再現し、レプリカを製作したというこだわり。
助手席にカメラマンが入りハンディカメラで撮った迫力のある映像やら、ドローンで空撮した映像を駆使したレースシーンはマイケル・マン監督の真骨頂だ。
とりわけ、クライマックスのミッレ・ミリアのレースシーンはイタリア郊外の美しさと赤いフェラーリが駆け抜ける迫力が一体化しこのシーンだけでも観る価値あり。
伝記映画であるが人生の時代を追うのではなく、1957年の4ヶ月を描いているのはこの4ヶ月にエンツォの人生の局面がぶつかり合っていたからだという。
マイケル・マン監督はただのアクション映画の巨匠では無いのだ。