「全然痛快じゃない」フェラーリ 吉泉知彦さんの映画レビュー(感想・評価)
全然痛快じゃない
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うっとりするほどかっこいいフェラーリがスリリングなレースで競り勝って大興奮する、みたいな映画を想像していたら全然違う。むしろ安全運転をしたくなるし、フェラーリ欲しくならない。
エンツォ・フェラーリがアダム・ドライバーだったことにエンディングロールで気が付く。50代半ばの役で、オレと変わらないくらい。エンツォが高慢な男でなかなか嫌な感じだ。しかしブランドとはそいうもので、不遜であるくらい自分が一番であると思っていなければ他者を魅了することはできない。レースでの勝ち負けにこだわるのも、自分が誰よりも強者であると示したいという強い意志によるものだ。そんな人が奥さんを始めとして周囲の人と軋轢を生むのは必然だ。よく続いている。
子どもが無邪気に「パパーパパー」と呼ぶのが切ない。どんなに嫌な人間でも大切なたった一人のお父さんだ。子どもにエンジンの設計図を見せて、子どもが興味を示すと嬉しそうにする。
奥さんに詰められて、愛人にもけっこう詰められて、経営も大変だし、苦い。さっぱりうらやましくない。レースで優勝しても代償が大きすぎてつらい。
エンツォが、レーサーが二人死んで事故に巻き込まれた人が何人も死んでいるのに、特に死者を悼んだり憐れむ描写はない。そんな徹底ぶりが改めて腹が座ったハードな表現ですごい。
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