劇場公開日 2023年12月8日

「フレンチフルコース並みのボリューム感」マエストロ その音楽と愛と ヘルスポーンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0フレンチフルコース並みのボリューム感

2023年12月30日
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鑑賞方法:映画館

師匠であるクリント・イーストウッド監督から急遽引き継いだ「アリー/スター誕生」で俳優から監督として大成功を収めた弟子のブラッドリー・クーパー。

そしてブルーノ・ワルターの代役を務めたレナード・バーンスタインの数奇な運命に近いものを感じた。

そして、今の映画界の大巨匠であるスティーブン・スピルバーグとマーティン・スコセッシがプロデューサーとして全面バックアップするなど、大きな期待を背負ったブラッドリー・クーパー監督の第二作目。

なんて立派な映画を作ってしまったんだ!そしてNetflix配給ということもあってか、斬新なカメラワークやシーン繋ぎ、ロングショット等挑戦に満ちた映画だった。イーストウッド監督譲りの自然でラフなセリフやカメラワークが冴え渡った前作「アリー/スター誕生」とはまた違った境地に達したような気もした。
さすが、ダーレン・アロノフスキーの元鍛え上げられた撮影監督マシュー・リバティーク!

モノクロとカラー映像、画角の切り替え、20代から60代までを演じる為の特殊メイク、豪華な舞台、豪華なオーケストラ。まさにフレンチのフルコースのような映画だった。

今年公開された「TAR」の師匠でもあったレナード・バーンスタイン、同性愛の傾向もあり人好きの彼の人柄なのか、中々一つの場所に落ち着くことはなさそうだった。いかにも成功者のライフスタイルといった感じだ。

本作は妻であるフェリシアの視点、立場も丁寧に拾い上げ、才能ある彼女の女優人生からいつの間にか夫バーンスタインを影で支える妻という裏方に回っていく姿をとてもスムーズに変化させている。

特にマスコミに囲まれるレナードに耳打ちし、去っていくフェリシアの後ろ姿と、誰1人女優である彼女のことに振り返らずバーンスタインに注目し続けるマスコミと観客を正面から捉えて対比させたロングショットには痺れた。なんて悲しいロングショットなんだろう。

そして他の男へ色恋に走ろうとするも他の女を紹介するように近付いてきた男だったとわかるなど、とても切ない。

そして、その音楽の素晴らしさで日頃の行いを全てチャラにするバーンスタイン笑
ブラッドリー・クーパーが本当にバーンスタインに見えてくる。

しかし、一つ一つが素晴らしい要素でありながら、映画としてのドライブ感に欠けるストーリーで、他人の人生なので仕方がないのだが、もっと脚色しても良かったのではないかと思う。メインがハッキリしない豪華フルコースメニューであった。

ヘルスポーン