「説明が下手な人が哲学を語っている、そんなテイストの映画でしたね」けものがいる Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
説明が下手な人が哲学を語っている、そんなテイストの映画でしたね
2025.5.6 字幕 アップリンク京都
2023年のフランス&カナダ合作の映画(146分、G)
原作はヘンリー・ジェームズの『The Beast in the Jungle』
近未来のパリにて、感情浄化と向き合う男女を描いたSF風ラブロマンス映画
監督はベルトラン・ボレロ
脚本はベルトラン・ボレロ&バンジャマン・シャルビ&ギヨーム・ブレオー
原題は『La bête』、英題は『The Beast』で、ともに「獣」と言う意味
物語は、グリーンスクリーンをバックに演技をするガブリエル(レア・セドゥ)が描かれて始まる
ナイフを手にした彼女は、何かを見て叫び、映画は1910年のフランス・パリへと場面を展開させていく
1910年では、ガブリエルは著名なピアニストとして活躍し、夫ジョルジュ(マルタン・スカリ)とともに人形工場の経営に乗り出していた
サロンにて夫とはぐれたガブリエルは、そこで若き青年ルイ(ジョージ・マッケイ)と再会する
その後、美術展のフロアに出向いた二人は、6年前の話で盛り上がっていった
場面は変わり、今度は2044年のパリにて、面接官(グザヴィエ・ドラン)の質問を受けるガブリエルが描かれる
この世界のガブリエルは単純労働すらさせてもらえない身分で、仕事に就くためには「DNAの浄化」をしなければならないと言われる
一度はトライしたものの挫折し、それでも生きていくために再度挑戦することになっていた
浄化を終えた友人ソフィー(ジュリア・ホール)に励まされるガブリエルは、その装置にて1910年と2014年へと行くことになる
さらに、AIアシスタント人形のケリー(ガスラージ・マランダ)は、彼女を緩衝地帯と呼ばれる1960年〜1980年のクラブへと誘う機能を有していた
映画は、1910年の夫を捨ててルイに走るガブリエルと、2014年のストーカーと化しているルイとの交流が描かれていく
そんな中で緩衝地帯のクラブに行って、そこでルイと出会ったりもする
ほとんどのシーンがAIが見せている想像の世界となっていて、それらが目まぐるしく変化する印象があった
実際にはそこまで時系列シャッフルではないのだが、2044年に時折戻り、脈絡もなく1910年と2014年に行くので、その意図というのはほとんどわからなかった
映画はエンドロールがない作品で、その代わりにQRコードが表示されるのだが、さすがにスマホを立ち上げてかざしている猶予はなかった
だが、鑑賞したアップリンク京都では配布用のQRコードがあったので、それによってエンドロールと「ポストクレジット映像」を観ることができた
ポストクレジット映像には占い師・ジーナ(マルタ・ホスキンス)が登場し、ガブリエルに対して「警告」を発している
ざっと説明すると「241と書かれた部屋には入らないで! そこに入ったら後悔と悲しみが残るから」という感じの警告が発せられていた
2014年のジーナが見たガブリエルの未来というもので、現代パートの30年前の時点でそれを行なっているというテイストになっている
物語はそこまでややこしくはないが、ざっくりと「感情を無くしたら人間ではなくなる」みたいなメッセージになっていて、愛する人の感情が失われることが最大の悲劇のように描かれている
このテーマを時系列をシャッフルしつつ、様々な時代をもって描いていくのだが、1910年、2014年である理由についてはわからない
緩衝地帯のクラブのシーンもイメージショットのような感じで、どこにいても孤独みたいな感じに描かれていたように思えた
結局のところ、ソウルメイト的な出会いを果たしても、時代の流れに逆らえずに絶望するという現代風刺になっているのだと思うが、それにしてはややこしい映画を作ったなあと思う
また、原題に使われる獣の意味がよくわからなかったが、おそらくは「恐怖のメタファー」「感情を失うと人間ではなくなる」みたいな意味になるのだと思う
獣に感情がないとは思わないのでどうなのかなと思うが、人間的な複雑な感情を浄化で捨てるということは、生物的な感情を有するだけの獣になってしまう、という意味合いなのかなと感じた
いずれにせよ、難解ではないけど難解に感じる作品で、哲学的な側面があるのだと思う
人間的な感情とは何かを考えるとしても、欲望は獣のようなものであり、それに支配される人類は獣に他ならないとも思う
なので、獣と人間を隔てるものは何かと考えた時、本来有するものに手を加える傲慢さに警鐘を鳴らしているのだろう
そして、その傲慢さがもたらすものは後悔と悲しみしかない、と結んでいると感じた
現代的な価値観において、人間らしさを捨てた先にあるものは何かみたいなところまでは踏み込んでいないので、感覚的に捉えて、悲恋だったなあ、ぐらいに思えれば良いのかもしれません
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