「エヴリンが見たキリスト」DOGMAN ドッグマン humさんの映画レビュー(感想・評価)
エヴリンが見たキリスト
冒頭から惹き込まれ、精神科医エヴリンに紐解かれていくダグラスの過去。
質疑に対する回答が回想シーンとなり織り交ざるように進行していく物語。
心が張り裂けそうな暗黒の少年時代が語られるや否や私は打ちのめされてしまう。
しかし一方で、彼を明るく彩る記憶のかけらに少し助けられるのだ。
それは、母の陽気な後ろ姿と心地よい音楽、愛のない父から守ってくれる犬たちとの信頼関係、保護施設のサルマを通じて知る世界やほのかな恋。
だが、青年期には仕事も恋愛も期待と現実に翻弄され裏切りも受ける。
社会から突き放されたような疎外感が膨らむダグラス。
思うように動かない体では、バーの歌い手として脚光を浴び満ち足りた美しい表情でステージに立つのも、裏切りのない犬たちと生きる為に手を染める悪事もすべてが生命がけだった。
やがて巻き込まれていく不運を察知したとしても彼はそう生きるしかなかったのではないだろうか。
浅い呼吸と深いため息のせめぎ合いをコントロールしなければこの回想の緩急のつぎはぎをまともに縫い合わせようとするには冷静さを欠く、それ程に辛い半生だ。
そんなダグラスに同じ(闇の)匂いを嗅ぎ取られときのエヴリンは平静を装いつつもかなり動揺したようだ。
そして同時にダグラスへの同情が生まれたのをラストに向けて変わっていくエヴリンの眼差しが物語る。
ダグラス少年が受けた過酷な虐待は、あの状況をどう越えられるのだろう、いや越えられないんでは?と思うところまできていた。
それをどう乗り越えたか。
そして彼の一生をどう左右したのか。
彼が乗り越えたのは〝自分を置き去りにした母の本心の一部分〟と〝生きるために父に気に入られようとした兄がひとかけらのこしていた本心の一部分〟をみつけることができていたからではないか。
つまり、檻に隠された母からの差し入れと兄が投げ入れた白いハンカチがダグラスにもたらしたのは紛れもなく生きるための望みだった。
それを証拠にして〝生来の罪人はいない〟〝環境が人を追いつめる〟ことを信じ、彼はギリギリの精神を繋ぎとめたのだろう。
そして、その傍で生身の温もりで寄り添い続けてくれた互いの理解者である犬たちの存在だ。
彼なりの解釈によるこの3つの真実がなければ、ラストの十字架までたどりつくことはなかった気がする。
精一杯の命を尽くし召され逝くダグラス。
彼は潮時を見極めたのだろう。
取り囲むように集まった犬たちの忠誠。
そこには、彼が「不公平への報復」のためだけではなく、やはり一番には愛を求めて生き続けていたことが強く表れていて余計に切ないのだ。
主演ケイレブが落ち着いた物腰、柔らかい口調で際立たせ圧倒的な悲哀の憑依でみせるダグラス。
その子ども時代を演じるリンカーン君の迫真のまなざしの凄み。
シーンに合わせ心を鷲掴みにする音楽。
どれもがぴたりと心に張り付いて沁みわたってきた。
冷たい広場の十字架に磔になったキリストにエヴリンは静かに祈りを捧げたことだろう。
彼が犯罪に手を染めた事実と、それに至る消えない事実を誰よりも深く噛み締めながら。
おっしゃる通りですね。子供は国の宝。子供が将来の国の担い手。にもかかわらず日本という経済大国では市子のような母子家庭では一日三食食べれないという理不尽さ。政治家は自分たちが肥え太るばかり。愛国心などとほざく前に国を将来しょって立つ子供たちの貧困をどうにかしろと言いたいです。NPOに頼ってる自体おかしいですね。
とても鋭い洞察力で書かれたレビューですね。思わず読み込んでしまいました。私は本作のレビューはあっさり流してしまったので。
思えば本作は「市子」に通ずる作品でもありました。
なるほど!
犬たちへの贖罪の気持ちと祈り!!
その視点が抜けてました。
気付かせていただき、ありがとうございます。
欠けていたジグソーパズルのピースがソファの下から出てきたみたいな気分☺️
イエスは自分が磔になることで人間の罪を背負い、救い主となった。という漠然とした認識なのですが、ラストにダグラスが背負った人間の罪とはなんだったのか。
エブリンに語り終えたことで、今度は檻の外で暮らす人たちが自覚的無意識的を問わず、日々犯し続けているであろう罪についての告解をする番なのだよ、と言われたようにも感じます。
コメントありがとうございます。
humさん、とっても共感のレビューです。
オシャレして勇気を出して会いに行ったサルマの時、役人から追い出される時、人に失望しながらも誰かから愛されたかったダグラスがホント辛かったです。
ワンちゃん達がせめてのも救いでしたね。
「冷たい広場の十字架に磔となった…」なるほど。歩行の不自由な彼は、振り絞って歩きましたね。しかし最後力付き倒れる。つまり、地の重力が彼にとっては十字架だったということですね。他意も含めたこのラストシーンは印象的で、記憶に残るものですね。
おはようございます!
私も本作楽しめたんですがレビューに書いてある通りダグラス、犬の気持ちとかではなくてもうちょっと語りよりもアクションに時間を使って欲しかったという個人的意見ですね。
会話シーンが多い、長いと眠くなっちゃうんですよ。朝3時起きってのもあって。
以下の記述、共感いたしました。
そんなダグラスに同じ(闇の)匂いを嗅ぎ取られときのエヴリンは平静を装いつつもかなり動揺したようだ。
そして同時にダグラスへの同情が生まれたのをラストに向けて変わっていくエヴリンの眼差しが物語る。
おはようございます。今、humさんのレビュー読んでて、ほ~ってなってたところです(感動っていう意味です)
ケイレブ、すごくいいですね。子役、いちばん小っさい時の役の子も目が大きくてかわいかったなーと思いました。
コメントありがとうございます。
本作。。刺さった〜泣!
柔らかい口調で話すダグラス。
私もあの感じにすごくヤラれてしまって。もっとヤサぐれた感じだったらここまで心を持っていかれなかったと思いました。
ケイレブ。。素晴らしかった!!
共感ありがとうございます。
エブリンがキリストを観た、という考察に共感しました。教祖や師匠の話を聴くパターンが今作でもカウンセリングと言う形で表現されてましたね。「デューン」みたいに腕を突き上げなくても共鳴しているように見えました。ドーベルマン?はエブリンに遣わされたのでしょうか?