「危険な映画」DOGMAN ドッグマン SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
危険な映画
面白かった。DOGってGODの逆だから、キリスト教圏の人にとっては特別な意味合いをもった単語なんだろうなー、と思った。聖書では犬は悪い書かれ方をしていることが多いから、神に見放された存在、みたいな意味合いもありそう。
ダークヒーローみたいな感じなんだけど、とにかく不遇な生い立ちや社会状況ゆえにそうなった、というところが、「ジョーカー」と同じ。
こういう映画が出てくるのは、貧富の差が拡大しているということと、それが原因で社会が不安定になっている(貧しい人たちの不満が鬱積している)ことの反映なんだと思うと怖い。犯罪者である主人公に共感してしまう危険な映画。
もともと主人公は健全なドッグシェルター(保護犬の施設?)を経営していたのに、公的資金の削減だとか近所の苦情とかでなくすことになって、そのせいで犯罪者であるDOG MANが生まれたんだと考えると、すごく示唆的だなと思う。
社会の暗部や解決が難しい課題があって、それをかろうじて引き受けてくれる、人がやりたがらないいわゆる汚れ仕事みたいのがあって、法の中で管理できてた状況があるのに、それを解決するんじゃなくて、安易に失くすとか見えなくすることで、管理不能な状況になる、っていう…。社会問題が悪化していくときって必ずこういう過程がある気がする。
ラスト、女性の精神科医がひどいことになるんじゃ…、という不吉な予感がしたけど、なんにもなくて良かった。でも、もしかしたら彼女が「痛み」を共有できる人じゃなかったら、助かってなかったんじゃないだろうか。
主人公の神様との向き合い方が面白かった。神様をうらむんじゃなくて、むしろ常に敬虔な態度をとっている。状況によって自分は悪人になった、と悟りきったように話すくだりは、仏教の考え方に通じるものがあるなー、と思った。彼が自分の行いに罪悪感を持たないのは、そうさせているのは神様だから、と考えている気がする。
「装うこと」もテーマになっている。シェイクスピアの演劇の場面では、装うことによって真実の自分を表現する、という考え方が語られる。これはヒーローが変身することによってパワーを得ることと何かつながりがあるように感じた。
悪役が男性や白人にかたよってるような気がしてちょっともやもやした。主人公がドラァグクイーンになったのは、(父親や兄と同じ)男性である自分を否定したかったから、と考えられなくもない。
深い考察に共感しました。
ダグラスには母と初恋の人しか純粋な女性として関わる事がなかった、話を聴いてくれたカウンセラーがやっと3人目になれたんでしょうね。カウンセラーの元夫が子どもを連れ去ったりして、イヌに喰われると思ってました。