劇場公開日 2024年3月29日

「オッペンハイマーの主観を徹底的に。」オッペンハイマー image_taroさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 オッペンハイマーの主観を徹底的に。

2025年9月26日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

この作品は、公開当時から原爆がどれほどの被害をもたらしたのかを直接的に描いていないと批判されてきた。これを観てそういう気持ちになることも分からないではない。しかし、おそらくノーランの関心は、客観的に原爆がどのような影響をもたらしたのかではなく、開発者オッペンハイマーが何を考え何を思ったかであって、ここにとことん焦点を絞っている。だから、反原爆のためにこの作品を撮ってはいない。だけれども、開発者側の想いを丁寧に辿っておくことは、結果的に反原発に貢献すると私個人は思う。何故なら、同じことを繰り返さないためには、こういう振り返りは必要不可欠だからだ。

この作品は、ある意味では科学の暴走を描いているのだが、この作品を観てみると、科学者単体ではこの暴走は起こらない…むしろ政治の暴走が呼び水になったり、火に油を注いだのではないのだろうかと、そんな風に思わないでいられなかった。ひとりの科学者として、オッペンハイマーが原爆の開発に貢献したことは間違いないけれども、彼が生きた時代と歴史、その時の政治に大きく振り回されたことも、また悲劇を生んだ大きな要素であっただろうと。

そして、ノーラン監督の撮り方にも言及しておきたい。この監督は、初期の頃からこの傾向が強いが、物語を時系列に描く気が乏しい(もちろん、全ての作品でではない)。単に回想シーンを挿入するとか、そんなレベルでなく、「時間」の取り扱い方が実に複雑で(この傾向は『テネット』で極まった)、行きつ戻りつするかのように重層的かつ循環的に物語ろうとする。そして、これが実に効果的に作品の核心的なテーマを浮かび上がらせる。やはり特異な監督であることは間違いない。

いま〜じゅ太郎
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