「ノーランの巧妙さ」オッペンハイマー Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)
ノーランの巧妙さ
まず、本作はもちろん原爆使用を称賛してはいない。しかし、原爆製造と使用は政府の判断なのに、それをオッペンハイマーの自伝という形で描かくことで、あたかも〝科学の進歩VS倫理〟という人類の命題のようにすり替えている。巧妙に。
オッペンハイマーの科学者としての物語、社会背景、苦悩はよく描かれているし、ナチスに先を越されないようにドイツから亡命した物理学者たちとロスアラモスに街を作る描写なんか、さすがに面白かった。
だが、観ているうちに、わざわざストローズとのややこしい確執を軸にしているのは、ひょっとして投下したアメリカ政府への言及を避けるためではないかとすら思った。
広島長崎についても、オッペンハイマーの幻想、科学者の罪悪感で終始。いやいや、科学者に罪悪感を背負わせる前に、映画監督なら時の政府をきちんと検証してよ。
311の福島原発事故のときにも思った。追及するべきは東電や政府の責任で、原発開発者に責任を負わせるのは間違っている。
結局ノーランもアメリカで炎上することを恐れて保身に走ったか。それとも、原爆投下を〝あれは仕方なかった〟と考えている一人なのか。ノーランの頭の良さに腹が立つ。
不倫相手が死んだときに妻が言った。
「罪を犯しておいてその結果に同情しろと?」
科学者の苦悩に同情するのもいいけど、政治判断を掘り下げないのは片手落ち。
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