「原爆開発という白羽の矢が立った研究者の運命」オッペンハイマー greensさんの映画レビュー(感想・評価)
原爆開発という白羽の矢が立った研究者の運命
5月の頭に1回目の鑑賞、その後パンフレットを読んでから2度目の鑑賞。NHKBSのオッペンハイマー特集を見て、なんとかコメントを書くまでこぎつけました(笑)。重大な史実を元にした映画なので、基本的な事実も理解せずにいい加減なコメントを書いてしまってはいけないな、と思いまして、少しだけ勉強してみました。
ちなみに映画館での2度の鑑賞は、どちらも満員で色んな年齢層の方が観に来ていて、本作に対する日本での関心の高さを感じました。
物語は、物理学者オッペンハイマーが、学生時代、大学での教員時代を経て、マンハッタン計画で原爆開発を成功させるまでの人生を順を追って描きつつ、その時代と行きつ戻りつしながら、次の2つの場面も描きます。1つは、原爆投下を経て終結した第二次世界大戦後に、オッペンハイマーにかけられた「ソ連のスパイ容疑」をめぐる聴聞会の様子(1954年。オッペンハイマーが狭い部屋の中で聴聞を受け、研究者仲間や妻、マンハッタン計画の責任者である軍人グローブスなどの関係者も同室に呼ばれて証言を求められる)。もう1つは、オッペンハイマーの因縁の相手となり、戦後に水爆開発を推進してオッペンハイマーとも対立したストローズが、商務長官として任命されるにふさわしい人物かを問う公聴会の場面です(1959年。この中でストローズは、戦後一度は国民の英雄となったオッペンハイマーを国の安全保障を脅かす存在であるとして失墜させたことについて、追及を受けます)。
この映画を観て個人的には、もとは純粋な理論物理学者であったオッペンハイマーの悲劇は、国から「原爆を開発せよ」という白羽の矢が立ったことにあったように感じました。もちろん国からの命を受けたのは彼の意思ですし、マンハッタン計画に関わり始めた当初から彼は、自分が開発する技術が大量破壊兵器に使われることは理解していました(オッペンハイマーが、これから、マンハッタン計画に関わろうとする自分になぞられて「ノーベルは偉大な科学者だが、彼が開発したダイナマイトが大量破壊兵器となった」と口元に笑いを浮かべながら話す場面があります)。その意味では、「悪いのは自分ではなく、国が自分に白羽の矢を立てたこと」とは言い切れず、自分が研究に関わったことが、原爆という凄惨な兵器の使用につながり、その後の核開発競争を招いています。それでも当時の視点で見るならば「ドイツに開発される前に、なんとしてもアメリカが核兵器を開発しなければドイツを阻止できない」「アメリカが開発しなければ、ドイツあるいは他の国が開発するだけ。オッペンハイマーが指揮をとらなければ、遅かれ早かれ他の国の別の科学者が核兵器を開発するだけ。」という考え方も道理があるように思いました。
そう考えると、オッペンハイマーは、兵器開発競争の激しい戦時中、優秀な頭脳があったがために、その後一生悔いるような使命を背負ってしまった…私にはその苦しみは想像を絶するものに感じられました。私自分の小さな人生を考えてみたら、こういう戦争に関する苦しい使命を国から背負わされるようなことがないのは本当に幸せなことだと思いました。平和が保たれて来た今の日本だからこそ、戦争に関係のない「何か」を自分の生業や使命として選ぶこともできるわけですし、ありがたいなと思いました。
「歴史は繰り返す」という言葉があって、人間の愚かさに対して「(愚かな)人間は全然進歩しない」という意味合いでよく使われるように思いますが、「繰り返す」かどうかはさておいて、歴史というものは決して「後戻り」しないものだと思います。今から大量破壊兵器が生まれる前の時代に戻ることはできませんし、すでに地球上に沢山配備されている核弾頭が、ビデオテープを巻き戻すように前の状態に戻って、跡形もなく姿を消すこともありません。けれども、人間が「さらに進歩する」ことによって、今意味を持っている核兵器が、意味を持たなくなるように出来るかもしれないし、そうなったらよいな、と思いました。
本当に夢物語かとは思いますが、もし科学技術が進歩して、今配備されている核弾頭を無力化するような技術が出てきたら(迎撃ミサイルなんかも、ある意味、無力化する技術なのかな、と思いますが)、時代は今とは全然違う、新しいものになる、、、そうなったりしないかな…そんな想像を未来にめぐらした今回の映画鑑賞でした。
過去のことを振り返って、あの時何が悪かったのか(あるいは正しかったのか)を問うのではなく、原爆開発、原爆投下をオッペンハイマーという科学者の立場に立って追体験し、「それで、あなたは、未来に向かってどうして行きたい?」とノーラン監督に問われていると感じました。考えさせられる良作でした!
greensさん、コメントありがとうございます。映画館に行くことができるようになってよかったですね!なかなか行けない時期があること、よくわかります
㊗️❗️
共感コメントを下さった皆様、ありがとうございます😭
お返事しないままとなっていましたこと、お詫びしたします💦
この1、2ヶ月、実家の断捨離に格闘していまして(暑い、重い、しんどい!)、映画館も、こちらの掲示板も完全にご無沙汰状態になってしまいました。断捨離が完了したので、ここに復活宣言をいたします笑!映画館に行くぞー! 皆さまのレビューもこれから少しずつ読ませて頂きたく、今後とも宜しくお願いします!