劇場公開日 2024年3月29日

「原子爆弾という忘れがたきモノから、新たな技術に対する人類の使用責任を問う」オッペンハイマー asukari-yさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5原子爆弾という忘れがたきモノから、新たな技術に対する人類の使用責任を問う

2024年4月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

知的

難しい

 2023年を代表し、アカデミー賞で作品賞を含む7部門に輝いた大作。原子爆弾を生み出し、その後の世界を変えた物理学者の栄光と苦悩を描いた作品です。
自分としては、作品の発表と同時に日本での公開を待ち望んでいました。歴史が好きな自分として、当事者が原爆とどう対峙したのか。それをどう描いたのか。そしてついに拝見したわけですが・・・

めちゃくちゃ豪華!

 やっぱりクリストファー・ノーラン監督はすごい。映像美だけでなく、主人公の内面を浮き彫りにした演出や爆破の音響、観てるこっちが混乱しないような時系列の配列、そして迫力と繊細さを両立させた3時間に、退屈さを感じることはなかった。
また役者陣も豪華。キリアン・マーフィにロバート・ダウニー・Jr、ケネス・ブラナー、エミリー・ブラント、ラミ・マレックと多くの名優に加え、トルーマン大統領役でまさかのゲイリー・オールドマン!ここまで豪華に揃えてええのかしら!?
そんな超大作と言っても過言ではないような本作、しかし訴えているのは現代にも通ずる問題に対してではなかろうか?そんな印象を受けました。

 まず気を付けておくことは、これはオッペンハイマーの視点で描いているのであって、オッペンハイマーの周りに起こったことを描いていること。彼が認知していないことは描かれていないこと。巷でよく言われている“原爆に対する描写が少ない”のはそのためかと。自分としては、“原爆を生み出しだ事に対し、自責の念に苛まれる”姿を描いていると思います。

 最初は、戦争に勝つためでした。ナチスドイツに負けないために非常に強力な爆弾を開発し、戦争を終わらせる。そのために物理学者として全力を注いだ。しかし出来上がって実験が成功した時、“作ってしまった(やってしまった)”となる。問題は対人に使うだけではない。その威力は驚異なだけにどの大国も欲するだろう。その結果、核兵器の増強に走る。しかしそれは、間違えたら人類を絶滅させるかもしれない。

“世界は理解しない。それを使うまでは”と言うセリフ・・・

非常に重たい。そしてそれは、実は現代にも通ずるものがあるのではないか?

 今や技術革新著しいこの世界、しかし、生み出したものが持つ負の側面を十分理解しているものがどれだけいるのだろうか?最近で言えばAI問題。AIの持つ力が悪用される可能性と、それによる信用・情報の失墜の可能性。生み出した人は、もちろん世の中が良くなればと考えてのことだろうが、その問題が表面化して初めて気づかされる。新たな技術が持つ負の側面に。原爆も同じではないか?原爆もシンプルに見れば技術革新だと思う。しかし作って初めてその恐ろしさに当の本人は気づいたんだと思う。“人類には早すぎた。そして前にはもう戻れない。この危険を後世に残してしまった責任は重い”と思ったのではないか。この危険、形は変われど現代にも通ずる。

自分たちは新たな技術に対し、良き使用者にならなければならない。さもないと人類は自ら滅びる。そう訴えた映画ではないだろうか?

ラストシーンでオッペンハイマーをアップにし、自分が作り上げたモノが悪い方向に使われたときの世界を想像した時に見せる表情・・・

そんなことが起きないでくれ、とも願うような・・・

あのワンシーンに、オッペンハイマーの、いや本作の願いが込められているように思うのです。

asukari-y
asukari-yさんのコメント
2024年4月3日

talisman さん
コメントありがとうございます。

自分も同じ思いです。技術を悪い方向に使った結果、破滅に向かわないことを祈るばかりです。

asukari-y
2024年4月3日

人間の自らの知的探求心を止めることはできない。でも人間は同時に良き(善き)使用者になれるのだろうか?残念ながら私は悲観的で懐疑的ですがそれでもほんの少しであっても一抹の希望だけは捨てたくないです

talisman
asukari-yさんのコメント
2024年4月2日

かばこ さん
コメントありがとうございます。
知る以前と知る以後で世界が変わってしまい、そして私たちは以前(過去)には戻れない、まさにそうかと思います。知ってしまった(生み出してしまった)責任の重さがヒシヒシと、強烈に感じる映画でした。

asukari-y
かばこさんのコメント
2024年4月2日

こんにちは
知らなければよかった、でも、知らなかった頃には戻れないのだ、と痛感しました。

かばこ