「芸術的なまでのパワープレイ」オッペンハイマー NandSさんの映画レビュー(感想・評価)
芸術的なまでのパワープレイ
前提として
・原作と思しきものは未読。
・予備知識もほとんど調べずに視聴。
・クリストファー・ノーラン監督の他作品は『プレステージ』、『ダークナイト』三部作、『インセプション』、『TENET』を視聴済。
面白かった。そこは間違いないのだが、非常に難しかった。
正直に言って理解できてないところも多数ある。
まずはオッペンハイマーの心情描写。ここは理解できた。ここが十分に深いので、予備知識がほとんど無いままに観ても面白いと思う。
同じくストローズの心理描写もある程度理解できたと思う。少しだけ自信は無いが、オッペンハイマーへの感情はなんとなく理解できた。
主要二人はなんとなく理解できたが、他の人物たちまでは理解できてない部分が多い。
何より登場人物が多い。現実の伝記だから当然と言えば当然なのだが、上映時間だけで記憶して一人一人判断するのは無理。
それでもある程度は工夫されていると思う。久しぶりに出てきた人物名には一瞬だけカットが入るなど。
ストーリー(というか構成)の方だが、会話がメイン。専門用語や当時の時事ワードがびっしり、かつ時系列が大体3分割ぐらいある(視点は2つ)。なので情報量が異常に多い。しかも3時間あるし。
ただ、伝えたいメッセージは明確に伝わる。
"オッペンハイマーの人間性と後悔""核の危険性と世界へ与えた影響""我々が置かれている現実"。
日本人だからこそ言いたいことがあるかもしれない。他国の見解も聞きたい気持ち。
分からないことが多くて引っ掛かった。話は進むし、状況が良いのか悪いのかぐらいなら理解できる。その上でやっぱり引っ掛かる。
完全に理解しようとすると、科学だけでなく政治や哲学の知識も必要になってくるので、知識ゼロのまま観に行くとかなり苦戦すると思う。実際苦戦したし、解説動画等を観て少ーーーーーーしだけ理解できた。視聴後ですらそんな状況である。
が、これは好き嫌いの範疇だとも思う。映画をざっくり観たい人にはオススメできない。
音楽は相変わらず"ノーラン映画"って感じだけど、クラシックの良さは変わらずに美しい旋律が流れる。物理学を一種の芸術と捉えるような、そんな旋律。
とか思って音楽家の方を調べたら、『TENET』以外は担当していないのですね。似た旋律があったから同じ人だと勘違いしたのかもしれない。
映像も美しい。本当に美しいのだ。科学・物理学の芸術とも言うべき光景が自然界にもあることを再認識させてくれる。雨、風、植物、エネルギー、原子……。
字幕なしでここだけ観るのも悪くない。
難解で、会話だけで長ったるいはずの、しかも3時間ある映画。なのに話の重要な点は伝わるし、何よりも飽きさせない。省くべき無駄な部分も無い。ノーラン監督のパワープレイ。
配信されたらもう一回か二回観直して理解したい。難解だけど、引き込まれ理解したくなる。
そんな作品。
余談だけど、実在する人物の生涯を描くときは、どこかの時代だけ切り取るか、時系列を入れ替えた方が"物語"には適してるんだろうな、と納得した。
上映されている映画館も減ってきましたね。私の近くでは先日、終わってしまいました。
何度か見に行きましたが、好きというのではなく、いろいろ考えさせられる作品でした。