「愛を得るために戦った男」ナポレオン sumichiyoさんの映画レビュー(感想・評価)
愛を得るために戦った男
本作は18世紀末フランス史作品ではなく、ナポレオンの生涯を描いた伝記作品でもなく、ナポレオンの本質的な人物像を描いたドラマ作品でした。なので、史実が飛び飛びだったり、偏ったシーンが多かったり、登場人物もごく限られていました。
というより、純粋なラブストーリーだったと感じました。ナポレオンとジョゼフィーヌの出会いから始まり、二人は夫婦生活や夫婦喧嘩を繰り返しながら歴史をたどる。軍人気質な堅物であるナポレオンが自由奔放な年上のジョゼフィーヌに振り回されながらも心の拠り所とした姿を時に手紙で美しく、時に淫らな肉欲のままに描いていました。ただ、もう少し美しく描けなかったものか、評価が割れた一因になったと思います。
その後、ナポレオンは多くの戦争を勝利に導くと同時に多くの戦死者を出してしまう。そこが英雄でもあり悪魔と言われるゆえんだけど、二人の関係性も変わっていきます。作中、ナポレオンがロシア遠征中に語った「人は足りないモノを得るために戦う」というセリフが印象的でした。ナポレオンはジョゼフィーヌの心をいつまでも掴み続けたい一心が心の片隅にあったから戦い続けた気がします。夫婦の悲願というか。
その他、戦争シーンも見どころでした。特に、ワーテルローの戦いは大人数のエキストラが開戦から退却までがほぼノーカットで模擬戦争を行っていました。緊迫感のある険しい表情、重々しい兵士の動きがリアルでした。
主演のホアキン・フェニックスはナポレオンの二面性をうまく表現していました。仏頂面で感情を表に出さない軍人の顔と、ジョゼフィーヌの前だけだらしない顔と。さらに、往年の小太り体系まで。対して、ジョゼフィーヌ役のバネッサ・カービーは関係性の変化を見事に表現していました。ナポレオンを手玉にとる妻の姿と、離れてもなおナポレオンを見守る元妻の姿と。二人とも人間的な脆さと強さを感じました。
私的に悪くなかった作品でした。ナポレオンが戦争に明け暮れた理由、帝位を手にできた理由、流刑の地から蜂起した理由、亡命してまで生き続けた理由など心理的な視点が加わりました。「歴史の影に女あり」と言われるように、裏にこそ答えがあった気がします。単に、ヨーロッパ全土を支配した英雄で多くの兵士を死に追いやった悪魔ではなく、ナポレオンが一人の「男」として記憶に残った作品になりました。