「楽しいけれど不満が残る」FLY! フライ! 福島健太さんの映画レビュー(感想・評価)
楽しいけれど不満が残る
単純にキャラクターがかわいいとか、そのかわいいキャラクター達が空を飛ぶので楽しいというのはあります。
けれども、物語として満足したかというと、僕は不満でした。
カモの一家の臆病なお父さんが、一大決心をして旅に出るというのはわかりますが、今までずっと渡りをしてこなかったのに一大決心をする、その理由は当然ながら、何か大きな心境の変化を起こさせるものであるべきじゃないでしょうか?
池に住むカモのおじさんが「独りぼっち」と言っただけで簡単に旅に出られるなら、もっと早くに旅立てたはずです。
奥さんも子供も旅に出たがっていたのに、強硬に反対していた。
お父さんの人格を形成する堅い部分に影響するほど大きな問題、ありませんでしたよね?
それに、「シェフから逃げてスカッとした」というのもありません。
だって、悪い魔女とか支配を目論む王様とかじゃなくて、普通にレストランのシェフですよ?
それが鳥籠の中のペットを勝手に逃がされてしまったり、料理の材料にするアヒルを逃がされてしまったり。
むしろシェフが被害者じゃありませんか。
もちろん、「食べられる側はたまったものじゃない」と、鳥の立場の意見はあるのでしょうが、映画を作ったのも観るのも人間です。
人間は生きるために他の生き物を食べるし、食は文化です。
美味しい料理を食べたいというのは人間として当然の欲望であって、鳥の立場で「人間の食べ物をみんな逃してしまってスカッとした」というのに共感はできません。
感動させるような泣けるエピソードも弱いです。
だから、お話としては不満を感じます。
それと、どうでも良いことですが、エンディングで南極目指すのは、メチャクチャでしたね。
ペンギンは極寒の地域の生き物のイメージがあるけれど、実際に南極や南極近くの島に住むのは5種類くらいしかいなくて、その他の十数種類のペンギンは寒くない地域に住んでいます。
ジャマイカからなら、例えば南米のチリやペルーの沿岸部を目指せばフンボルトペンギンなどの生息地域になっているはずです。
それに、アニメの「宇宙よりも遠い場所」の劇中で聞いた話だけど、地球は自転しているので海流があって、陸地はその海流を遮っているけれど、南極へ向かう途中の地域はぐるっと一周陸地がないので海流が激しいそうです。
空を飛べないペンギンはもちろんのこと、飛行能力のある渡り鳥だって翼を休める陸地がないのです。
だから南極へなんか行けるわけがありません。
ペンギンだから南極だというのも、実際に南極へ行くのも、メチャクチャだと思いました。