「自由の音を聞く為に」サウンド・オブ・フリーダム 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
自由の音を聞く為に
一昨年(2023年)の全米夏興行で、一本の作品が公開。それは高評価を獲得し、予想を上回る大ヒット…。『バービー』や『オッペンハイマー』ではない。
製作費1500万ドル未満のインディーズ作品ながら、同時期公開のメジャースタジオの巨額予算超大作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング』を上回る成績を上げ、2023年の全米年間興行ランキングで並みいる大ヒット作と共に10位にランクインする快挙…。
最も驚きなのは、その題材。こんな事が現実に起きているのか…!
ずっと気になってた作品。
中米のとある町。歌う事が好きな一人の少女。
一人の女性が訪ねてくる。芸能プロダクションのスカウトらしく、少女の歌声が気に入り、父親を説得し、幼い弟共々スカウト。何かのオーディションらしく、多くの子供たちが集められていた。
子供たちを託した父親が夜迎えに行くと…、そこはもぬけの殻。
騙され、誘拐された。人身売買組織の犯行だった…。
人が人を売り買いする。奴隷制度があった時代じゃあるまいし…。
組織が扱うのは子供。
売られた子供はゲス連中に性の奴隷(おもちゃ)にされる…。
人身売買、児童誘拐、性犯罪…。数ある犯罪の中でも鬼畜の所業。
こんな事が本当に起きている。そしてそれが、闇の巨大ビジネスとして成り立っている。
許されていい訳ない。のうのうと成り立っていい訳ない。
組織の壊滅や関わった者の逮捕も絶対だが、最優先は子供たちの保護。
命懸けで挑む元米国土安全保障省の捜査官ティム・バラードの実体験に基づく。
社会派作品だが、ミッションはエンタメ作品のようなスリリングさ。
買い手に扮し、売り手に接近。囮捜査。
自身もその世界に内通。同じくその世界に内通している協力者と連携して。
大規模作戦を発案。無人島に売買専門のリゾートホテルを造り、売り手を伝って情報を流し、誘き寄せる。連れて来た所を、一網打尽。
勿論単独では無理。資産家や地元警察と協力。
一捜査官の立場や権限も超える作戦。法も限界で、上司からも窘められる。
が、ティムは諦めない。上司を説得し、協力者に直談判し、法や省も限界なら辞して個人で動くほど。
彼を突き動かす信念とは…。
ただただ、子供たちを救う為。それ以外にあるだろうか…?
無垢な子供たちが鬼畜大人たちの欲望のままにされる。傷付けられる。汚される。
それが子供たちにどんな傷痕を残すか…?
真っ当な大人…いや、人なら誰だって思いは同じ。
何としてでも救いたい。
それと、もう一つ。約束。
開幕で誘拐された姉弟の弟を保護。
約束した。お姉ちゃんも必ず助ける、と。
彼らの父親は、娘の居ないベッドを見る度に夜も眠れないという。
君は眠れるか…?
自分だったら…? ティムにも子供がいる。
親として気持ちは痛いほど分かる。たくさんそれを見てきた。
任務中は常々危険に晒される。一歩間違えたら、命も…。
よくこういう場合、家族と意見がぶつかるが、ティムの妻は後押し。夫の仕事を理解し、省を辞した時も。(ミラ・ソルヴィノ、お久し振り!)
家族や協力者がいて、信念を貫ける。
大規模作戦で10人以上の売買人を捕まえ、50人以上の子供を保護した。
が、そこに約束した姉は居なかった。
捜索を続行する中、居るであろう場所が推定される。
南米ジャングルの奥地。しかしそこは、無法ゲリラ地帯。最も危険な地域で、誰も近寄らない。
さすがに今回ばかりは周りも止めようとするが、ティムの信念は変わらない。
国連派遣の医師に扮し、危険極まりないその地へ赴くが…。
脚色はあるだろうが、本当にこんな体験を…?
だとしたら、衝撃戦慄過ぎる。
故居から連れ去られ、遠く遠く離れた、この世の果てか地獄のような場所。
そんな所で性と労働の奴隷にされ、希望は微塵も無い。
ゲリラどもは悪鬼。いや、悪魔だ。
ティムは少女を見つけ出し、救出して共々無事帰って来られるか…?
製作したインディーズ会社は宗教映画を多く作っているらしく、本作にも宗教観がちらつく。主演ジム・カヴィーゼルも敬虔なカトリック教徒だ。
だが、そこまで宗教色は濃くない。ズシンと響く社会派サスペンス力作。
神のお助けではない。正しき心を持った人たちの尽力なのだ。
EDのスーパーにまたまた戦慄。
人身売買ビジネスは1500億ドルをも超え、麻薬密売に匹敵するほど。
売買される人の数はかつての奴隷制度時代を上回るという。
本当に世の中、狂っている…。
救出された子供たちが歌う“自由の音(サウンド・オブ・フリーダム)”。
それが聞きたいんだ。
その為に彼らは奔走し続ける。