劇場公開日 2024年9月27日

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「映画の話をしよう」サウンド・オブ・フリーダム うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0映画の話をしよう

2024年9月24日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

アメリカの連邦政府機関で児童を対象にした性犯罪を摘発していた捜査官が、児童誘拐と売買のネットワークの存在を知り子供の救出に乗り出す物語。
良心に従いキャリアと身の安全を捨て規格外の捜査を展開する主人公の奮闘と、いかに深刻な犯罪であっても様々な国を経由するうちに正規の手段では捜査の手が届かなくなってしまう国際犯罪の恐ろしさを描いている。

…のだが、どうも日本公開が決まった時から海外ニュースを扱うサイトでの本作の扱い方に違和感があった。
話題を追っていくと、あちらでは児童買春スキャンダルが政治派閥を攻撃する定番材料の一つになっているらしい。また本作はもともと本国では2019年に公開予定で、2015年から2018年に脚本から撮影まで済んでいたものの映画会社の買収に伴い公開が見送られ、2023年夏に別のスタジオから公開された。そのペンディング期間に主人公のモデルとなった人物の現在の活動や政治的スタンスへの批判があったり、本国でのプロモーションの際に児童の人身売買と都市伝説的な話題が結び付けられたりした結果、映画本編以外へ話題が集まってしまったようだ。

だが本編には都市伝説や政治派閥などの話題は無く、むしろプロットは昔ながらのワンマンアーミー系アクションヒーローのテンプレだ。むしろ「国境と権限の隙間のせいで正攻法が通じない」という逆境の大きさを表現するためにドンパチや荒唐無稽なシチュエーションを採用したようにも見えた。

日本での封切前時点で本作に難を示すコメントの中には、「実話に基づいた…」的な宣伝文句が拡大解釈されていたり、「作り手が信用できないから」というスタンスで語られているものも見受けられる。ペンディング期間中の様々な時事関係を考慮すると、撮影後すぐに公開されていたらここまで盤外の話題に熱が入らなかったのではないだろうか。

対岸を叩く形のプロパガンダやナショナリズム的なニュアンスがあっても映画としての面白さがそれを凌駕し、国境を超えて人口に膾炙する作品がある中、本作のように誤解を含んだ話題が先行して主題を伝える機会を失ってしまう作品があるのは残念だ。
エンドロールで語り手の力を訴えているのだが、語り手が信用されないばかりに作品の本来の主題に目が向けられなくなってしまったのは何とも皮肉である。そもそもいくら語り手の信頼性を否定しようとも、世界で児童の行方不明事件や誘拐が発生し、人身売買が行われている事実が無くなりはしない。
そういう意味では盤外での取り上げられ方も、本編も、自分の暮らしに警鐘を鳴らしてくれる作品だった。

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うぐいす