劇場公開日 2024年8月2日

「恐怖はどこからやってくるのだろう。」Chime 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0恐怖はどこからやってくるのだろう。

2024年8月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

2024年。黒沢清監督。料理教室で講師をする男は「頭のなかでチャイムが鳴る」「誰かに半分脳を乗っ取られた」というちょっとおかしな参加者を疎んじつつ目を離せないでいるうちに、目の前でその男が死んでしまう。同じころ、有名レストランからの誘いを受けて意欲的に面談を受けるが、その直後、今度は自分が教室参加者の一人をめった刺しにして殺してしまう。家では妻とも息子とも会話らしい会話がなく、最初の事件の刑事が次の事件では行方不明者の捜査として現れる。レストランの話は簡単に立ち消えになってしまう。男の周囲を不穏な世界が取り囲む。
幽霊の恐怖、自分が殺してしまう恐怖、捕まってしまう恐怖をすべて詰め込もうとしたと黒沢監督はインタビューに答えている。なるほど、殺してしまった女性は幽霊として、画面には現れないまま存在感を出しているし、おかしな参加者を突き放しきれなかったり、息子やレストランの経営者らしき男に蔑まれたりした後の様子を見ると、自分が殺人者になってしまうかもしれない恐怖(いわゆる殺意)と戦っているようにみえる。また、女性を殺してしまった後では刑事の存在におびえている。
これらの恐怖はこうも言える。想像することの恐怖①、自分には計りしれない自分自身のなかにあるものへの恐怖②、現実世界への恐怖③。①はイメージの世界であり、②は無意識や抑圧の世界であり、③は法や社会の世界である。これらすべてに恐怖を感じる男は、扉をしめて、安全とはいいがたい家の中に閉じこもるばかりだろう。「安全とはいいがたい」のは、家の中では想像を禁じることも、現実から逃避することもできるが、抑圧されているもの(妻がため込んだゴミ)や他者としての家族は禁じるとこも避けることもできないからだ。われわれはみな「ここ」に生きている、と黒沢監督はいう。

文字読み