「「音楽」をテーマにした意欲作」映画ドラえもん のび太の地球交響楽(シンフォニー) Dolionさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「音楽」をテーマにした意欲作

2024年3月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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<ネタバレ無し感想となります。>

【総評】
近年では珍しさを感じなくなってきた完全オリジナルの劇場版ドラえもん。
今作はドラえもん初の、「音楽」をメインテーマに据えた物語として注目を集めました。

公開前の情報からは、原作に音楽を主軸に据える要素が乏しく、さらには小学6年生の平野莉亜菜さんがメインのゲストキャラクターを演じるという情報もあり、失敗作になる未来を心配するには十分な材料が揃っていました。同じように考えていたファンも多かったと思います。

しかし、その心配は杞憂であったことを先に述べておきたいと思います。

最も懸念していたのは、「音楽」をメインに据えることが、劇場版ドラえもんの体裁を崩してしまうことでした。しかし、幸いなことに、ディズニー映画や演劇のように、急にキャラクターが歌い出すような不自然なシーンはなく、劇中でのび太達が演奏するシーンもしっかりとした理由付けがあり、尺も調整されていて飽きさせない構成でした。

また、もう一つの懸念点であった平野莉亜菜さん演じるミッカについても、彼女の演技は小6とは思えないほど素晴らしく、可愛らしさとキャラクターへの適合度に驚かされました。

視聴前の期待値が低かったことを考慮しても、今作は「傑作」として評価できる素晴らしい出来栄えでした。しかし、過去作と比較して☆5をつけるラインには至っていないと考えられる為、☆4評価としたいと思います。

【シナリオ】
劇場版ドラえもんとしての基本の流れをしっかりと押さえながらも、メインテーマの「音楽」を前面に押し出した見事なシナリオになっています。特に面白いと感じたのは2点あります。これらは、物語の中で欠かせない要素でありながら、自然にシナリオに溶け込ませられていた点が秀逸でした。

まず1つ目は、リコーダーの失敗音を「のび太の"の"」の音として物語に絡めていった点です。誰もがリコーダーで経験したことがあるであろう"ピー!"という金切り音。のび太が望まず乱発するのは想像通りでしたが、五線譜に含まれない音階で、世間的には認められていない音だとしても、その本質は1つの音楽。この視点で物語に絡められていたのは、凄い発想の転換だと感心しました。

次に2つ目は、何でも有り系道具の1つである「あらかじめ日記」の使い方です。これもネタバレになるので詳細は述べませんが、1つの道具を使い分けて複数のギミックにしているのは、かなり珍しいと感じました。

その他にも、のび太達がヴィルトゥオーゾとして見初められた理由が、作中で十分に語られていなかった点についても触れておきたいと思います。ミッカ達にのび太達はヴィルトゥオーゾとして招かれるのですが、勿論のび太達は音楽の専門家ではないので、この点を強引な展開だと感じてしまった人は多いのではないでしょうか。なぜ、下手なリコーダーを練習していたのび太が選ばれたのか、明言はされないものの、後半でちゃんと匂わせがあるので、まだ視聴していない人は、その点にも注目して貰えたらと思います。ミッカが「ピピっと響いた!」のにも、ちゃんと理由がありました。

【演出】
目を引くのはやはり、演奏シーンのキャラクターの動きや音楽の可視化でしょう。ミュージカルアニメにならない程度の、コミカルなアニメーションは非常に楽しく、美しいものに仕上がっていました。
ちなみに私はミュージカルが大の苦手で、ディズニーアニメ全般は苦手だし、遊園地のパレードなんかは5分と見てられないくらい、歌と踊りだけで話を紡がれることに嫌悪感があるのですが、そんな私を飽きさせない程度には、高密度な演出と、長くなり過ぎないような配慮があったと思います。

オリジナルの秘密道具「音楽家ライセンス」も素晴らしかったです。各楽器が意思を持ってコミカルに動くのはドラえもんらしさを感じさせ、楽器の習熟度が可視化されるのは分かりやすくなっていました。

一方で、ファーレの殿堂を復活させる過程は、RPGを彷彿とさせる流れで、所謂「お使いイベント」のような面倒臭さを感じました。この点は製作陣も理解していたのか、まきで終わらせてくれたのは満足でした。あまりにもゲーム的な要素が強かったので、ゲーム化の予定があるのかと思っていましたが、残念ながらその予定はないようです。

【ゲストキャラクター】
・ミッカ
劇場版ドラえもんで、明らかに年下キャラクターがゲスト参戦するのは珍しかったりします。しかし、ミッカは我儘だったり生意気な描写が殆どなく、素直で純真なキャラクターとして非常に可愛らしく描かれていました。のび太への「のほほんメガネ」という優しいニックネームもとても良いセンス。
先述した通り、小6の子が演じているため、演技力に一部不足を感じる箇所もありますが、地の声質と歌声が素晴らしいため、まったく気になりませんでした。

・その他のゲストキャラクター
今作でも多くの著名人がゲスト声優として採用されていましたが、特に気に障るような棒演技は見受けられませんでした。強いて言えば、芳根京子さん演じる歌手枠のミーナがちょっと下手だったかなというくらい。彼女の役割が歌手であることから、台詞が少なかったのが救いと言えるでしょう。逆に一番印象的だったのは、一人でオーケストラを演奏していた石丸幹二さんです。流石本職と感じる素晴らしい歌唱でしたが、本人提案の演出と聞いて二度びっくり。

【テーマ】
「音楽は楽しい。下手でも良い、好きだから、楽しいから、恐れず音楽に触れて欲しい。」このテーマに加えて、「好きだから、楽しいからという気持ちを大切に」というのが土台のテーマのようです。近年、SDGsだの多様化だの堅苦しい意識が高まる中で、このようなシンプルなテーマが提唱されるのは意外でしたが、そのシンプルさが逆に力強く、心に響くものでした。

【余談】
嬉しい悲鳴ではありますが、ここ数年の劇場版ドラえもんは、面白さの最低ラインが上がり、高いクオリティを維持できていると感じています。特にオリジナル回の出来栄えが安定しているのは、ファンとしても喜ばしい限り。来年も恐らくはオリジナルのようなので、楽しみに待ちたいと思います。

Dolion