劇場公開日 2023年10月20日

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「巨大利権に挑むということ」私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰? 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0巨大利権に挑むということ

2023年11月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

最近良くお目に掛かる”実話を基にした”映画でした。直近だと「福田村事件」や「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」が代表的ですが、本作もそれら同様かなり重たい事件を扱っていました。

ただ前2作と本作が異なるのは、前2作が100年程前のお話だったのに対して、本作は直近10年程度の時代の、しかも先進国であるフランスでの話だけに、余計に怖い作品だったと言えるかと思います。また、舞台となったフランスの原子力総合メーカーであるアレバは、2011年の福島第一原発の事故や、それ以前の投資の失敗などにより経営が悪化していました。まるでウェスティングハウスを買収し、福島第一原発の事故を経て経営が悪化の一途をたどり、会社が切り刻まれた挙句2023年末に上場廃止となる東芝と見事にダブるアレバ。その渦中で起きた事件だったことから、作中「フクシマ」という単語が何度も出て来るので、その点でも非常に身近というか、日本での出来事と地続きの出来事であることに、驚きも感じられました。

フランス語の原題「La Syndicaliste」というのは、邦訳すると「組合活動家」という意味だそうで、これは主人公であるモーリーン・カーニー(イザベル・ユペール)のことを指しています。日本で「組合活動家」と言うと、(かなり偏見あるかもだけど)ヘルメットを被って赤旗を振り、経営陣だけでなく政権批判をする”サヨク活動家”というニュアンスが含まれてしまいますが、モーリーンの場合、というかフランスの場合、労働者代表が経営に参画することが法的に定められており、彼女も労働者代表として取締役会に出席する立場でした。

そしてこの作品で描かれる彼女の姿は、日本で言うところの「御用組合」の首脳ではなく、ちゃんと労働者の側に立った労働者代表であり、正直こうしたフランスの制度だったり、彼女のような人材を輩出するフランスの社会的な風土だったりは、日本も大いに見習うべきところだと感じたところでした。まあ財界をパトロンに持つ政権が続く限りは無理だけど。

で、ようやく本題に入って映画の内容ですが、経営の悪化により中国を含めた企業再編を進める新社長・リュック(イバン・アタル)と真っ向対立したモーリーンが、自宅で暴漢に襲われる事件が発生。ところが指紋やDNAなどの証拠が見つからなかったため、逆に彼女は虚偽の告発をしたということで、被害者どころか被告人の立場に立たされてしまう。そして驚くことに一審では有罪判決を喰らうことに。

これがロシアとか中国の話ならさもありなんという感じですが、フランスで起こった事件だけに、うすら寒いとしか言いようがありません。でも巨大利権に挑むということは、同時に巨大なリスクを伴うということで、それは古今東西不変の真理なんだろうと思わざるを得ないところでした。

そうは言っても余りにも不条理な話であり、このままで終わっていいのかという話ですが、6年の歳月を経て、警察内部の協力者の調査により、モーリーンの事件の前にも、水道事業を手掛けるヴェオリア社に絡む内部告発者の妻が、モーリーンと同様自宅で暴漢に襲われ、証拠がないということで自作自演だと言われたという事件があったことが分かり、また新しい弁護士を付けたことなどで事態は展開していく。最終的にモーリーンは無罪判決を得たものの、実行犯はいまだ捕まっていない。怖っ!

因みにヴェオリアと聞いてピンと来たのは私だけではないでしょう。この会社、日本の水道民営化の流れにも参画しており、日本で初めて公共水道を民営化するという暴挙を行った仙台市の水道事業を請け負った事業体の親玉です。
いずれにしても、日本との意外な関係がいろいろと出て来る映画でした。

最後になりますが、主役のモーリーンを演じたイザベル・ユペール。1953年生まれの御年70歳とのことですが、実在のモーリーン・カーニー氏は1956年生まれなので、ほぼ同年代。暴漢に襲われたのがフクシマの翌年2012年なので、モーリーンが50代後半の頃の話だった訳ですが、見た目もっと若く見え、とても70歳のイザベル・ユペールが演じていたとは思えませんでした。彼女の力強い美しさが、本作を題材だけでなく、映画としても上質な作品にした主因だったように思えました。

そんな訳で、評価は★4とします。

鶏