「良い被害者」私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰? いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
良い被害者
イザベル・ユペール御歳70 凛とした佇まいは相変わらずで、鼻っ柱の強さを演じさせたら誰も敵う者等皆無といった風情である 前作と同様な役回りやストーリーテリングに落とし込まれているが、しかし前半と後半とはハッキリとセパレートされた物語となっている
企業・ビジネスドラマからの女性への性的犯罪ドラマ、そして法廷劇という変遷を辿っていく構成は、確かに観る人をどこに誘われるか緊張感が持続するヒューマンミステリー仕立てである
そして制作側の意図するところは、巨悪に立ち向かう"半沢直樹"的ドラマツルギーではなく、1人の女性としての尊厳の回復を描く後半がキモであろう しかし今作の同時駆動している"意地悪"な裏テーマは、『本当に犯罪は存在したのか?』という、中々の辛辣なシナリオに驚愕するのである
表題にもあるように、特に女性への猥褻事件に於いてはセカンドレイプがセットになって被害者を苦しめるのが定石である 卑劣な行為を世間は憎むと同時にその憐憫を素直に体現した被害者像を欲する 日本でも騒がれた類似ニュース素材であり、国家や人種に関係無くこの問題は根深く影を落とし続ける そもそも憎む対象は同一なのに、何故に人は被害者のパーソナルな部分に興味と幻想を抱くのか?
しかし一筋縄では行かないのが今作の妙で、その疑問点の解明にスポットライトを浴びせることを避け、実話のとおり、犯人が解明しない中での"自作自演"の可能性を、"ガスライティング"の歯牙に戦きながらの反駁する力強く奥深い作劇が繰広げられる しかしあくまでそれも可能性の立証を展開するだけで、類似事件の提出という奇跡的なヘルプが有利に働くのは、果して彼女の運の強さなのか、その辺りの綱渡り的なサスペンスも手伝い、最終的には裁判官による判決に落とし込まれる何とも煮え切らない結末を迎える
しかし、実話ベースであり、実際もこういう落とし処であるのは否定できない その冷酷で温度も感じられない現実を、改めて映画として作劇する事の意義は大きい 全ては闇の中であり、ハッキリとした悪人は巧妙に日常に溶け込むのだ
せめて映画だけでも爽快感を味わいたいエンタメ派の人には真逆の作品だが、人間の裏の部分を絶妙に表現する緻密さも又映画の醍醐味だろう