劇場公開日 2023年10月13日

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「重い、苦しい、目を背けたい現実。けれど映画としては引き込まれる」月 ycoさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0重い、苦しい、目を背けたい現実。けれど映画としては引き込まれる

2025年6月17日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

怖い

難しい

現時点で、自分の身内には障碍を持つ者も介護を必要とする者はいない。しかし、だからこそいつ自分が当事者になるかもしれない未知のことへの不安からこの分野に関心があるし、モデルとなった相模原市のやまゆり園の事件の犯人についての記事もいくつか読んでいる。

私が知る限りの少ない経験や知識を元にいえば、この映画は少なくともかなりシビアに障碍者介護の現実を伝えようとしていると思う。
目を背けたい、生理的に受け付けられないようなシーンもあるが、特に誇張しているとも思わない。施設によっては全く違う状況のところもあろうが、それが事実として存在する施設もある。

今回は事件をモチーフに、その事件を引き起こした状況・過程を描くために負の場面が多くなったのは否めない。しかし、その中でも「光」の存在も描くことも疎かにはしていなかったと思う。
「テーマがわかりづらい」と言いう感想が散見されるが、私はそうは思わなかった。原因も答えも一つではなく、そこに関わる人たちも様々な事情を抱えている。しかしながらその根底には「個の尊厳と現実についての問いかけ」がぶれずにあると感じた。
(そういう意味では「ロストケア」といい勝負だが、ロストケアの方がエンターテイメント性を重視しているし、この映画はどこまで具体的に現実を映し出せるかを重視していると思う)

役者について言えば、皆良かった。この映画が伝えようとするものに向き合う真摯さが伝わってくる演技であった。

特に、こんな感想をもたれても本人は嬉しくもないし公私混同しないでほしいと思うだけかもしれないが、実際に幼子を亡くしているオダギリジョーの心境やその仕事を受けた際の覚悟を勝手に慮ると胸が苦しくなるし感服する心持にもなる。(正直、オファーした方も色んな意味で凄い)
また、この映画に限らないが、オダギリジョーは独特の柔和さとそれゆえの危うさを持ち合わせた浮世離れした存在感を保ちつつもちゃんと物語からは浮かないのが凄い。いつも「〝オダギリジョー〟なのにちゃんとその〝役〟として存在できる」稀有な役者だと思う。

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yco
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