「500年後の真実」ロスト・キング 500年越しの運命 sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
500年後の真実
個人的にシェイクスピアの戯曲に登場する悪人の中で、最も魅力的なのがリチャード三世だと思っている。
コンプレックスの塊であり、目的を遂げるためには手段を選ばない残忍な性格。
癇癪を起こすような幼児性がありながら、計算高く、何故か女性たちが抗うことを諦めてしまうような魔力を持った人物でもある。
もちろんこれがシェイクスピアの創作したリチャード三世像であることは承知している。
あくまでこれは歴史劇であり、史実ではないのだから。
それでも世間一般のリチャード三世に対するイメージは醜くて残酷な悪人といったところだろう。
そう考えるとリチャード三世にとっては不不名誉なものであり、シェイクスピアは随分と罪深いことをしたのかもしれない。
実はリチャード三世は我々のイメージとはまったく異なる人物だったかもしれないのだから。
真実は時の勝者によって作り替えられるものであり、リチャード三世は戦いに破れたのだ。
これはリチャード三世の王位簒奪者という不名誉を晴らそうとする一人の女性の物語だ。
考古学とは何の繋がりもないフィリッパが、リチャード三世に異様なまでに執着していく過程が面白かった。
むしろこれはリチャード三世の真実ではなく、フィリッパという女性の生き方にフォーカスを当てた物語だ。
まず彼女は筋痛性脳脊髄炎という病気を患っており、社会的に正当な評価をされていない。
彼女には二人の息子がいるが、夫とは既に別れて別居状態にある。
しかし夫のジョンは今でも子供たちの世話をしたりと、献身的に家族に尽くしてはいるようだ。
ある日、彼女はシェイクスピアの『リチャード三世』の舞台を観て、演じる俳優の姿に惹き付けられる。
そしてリチャード三世の作られたイメージに疑問を持つようになる。
すると彼女の前に舞台で演じた俳優の姿のままで、リチャード三世の幻覚が現れるようになる。
彼女はリチャード三世について調べるうちに、彼の遺骨はどこにも埋葬されずに行方不明になっていることを知る。
彼女は自分が彼のことを見つけるのだと固く決意をする。
正直、どうして彼女が幻覚に取り憑かれ、リチャード三世に執着するようになったのか理解するのは難しい。
これはもうリチャード三世が彼女を呼び寄せたとしか思えない。
彼女自身もずっと目に見えない何かを探し求めていたようだ。
そしてフィリッパはある社会福祉施設の駐車場の下にリチャード三世が埋葬されていることを突き止める。
遺骨を発掘するためには様々な協力を得なければならないが、感情的に話す彼女の言葉をほとんどの人間が論理的に理解することが出来ない。
フィリッパ自身も大きな力によって導かれているのであり、直感でリチャード三世がここに眠っていると信じてもらうより他に説明が出来ないのだ。
それでも熱意を持って直向きに働きかければ、必ず心を動かされる人たちはいる。
最初は彼女の言葉を受け流していたジョンも、彼女の息子たちも、そして同じリチャードの名を持つ考古学者も、ついには彼女の熱意に心を打たれ、彼女を援助するようになる。
彼女の直感によりリチャード三世の遺骨は発掘されるが、彼の名誉を挽回するまでには至らなかった。手柄を横取りしようとする大学側の姿勢など、名声に目が眩んだ人間の愚かさが目についた。
最終的にはイギリス王室から、リチャード三世が正当な王と認められたことでフィリッパの願いは叶ったことになる。
本当のリチャード三世が善人だったのか、悪人だったのかは分からないが、もし悪人だったとしても500年という月日は人の行為が許されるには十分な時間だともいえるのではなかろうか。