「死人に口なし、歴史はロマン…で、いいの?」ロスト・キング 500年越しの運命 うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)
死人に口なし、歴史はロマン…で、いいの?
15世紀の英国王リチャード3世の遺体捜索と彼の真の人物像を解明する実在のプロジェクトに基づいた作品。
後の王朝によるプロパガンダと創作物により暴虐の王として伝わるリチャード3世。歴史小説やゲームの影響で、戦国武将や幕末の人物に「真偽不明だけどなんとなくのイメージ」がテンプレ化している日本にいると、創作物や伝承の影響力はよくわかる。
そういう背景はあるものの、本作はリチャード3世の真の姿を検証する物語ではなく、プロジェクトを牽引した女性・フィリッパ・ラングレーの挑戦の物語である。リチャード3世が古いレッテルを貼られたままいいように描かれることに憤慨し、アマチュア歴史研究家やプロの学者の中にぐいぐい飛び込んで様々な説を重ね合わせ、一次資料を探し伝承の矛盾や不合理を纏めていく行動力は、日常のフィリッパの内向的な振舞いとの対比もあって目を見張る。
証明や推測だけでなく、直感や情熱で物事を進めていく描写も多々あり、研究者の姿勢として賛否が分かれるかも知れないが、実際の墓所が発掘可能な場所にあった経緯を調べると偶然に好材料が重なっていたことがわかり、こういった奇縁もこのプロジェクトには重要だったことがわかる。
また彼女の前に幻覚のリチャード3世が現れるのだが、彼を都合の良いお助けヒントキャラではなく、フィリッパの内心を整理したり、インスピレーションの象徴として使うところに事実ベースの作品としての誠実さを感じた。
遺体が伝承の様に川に流され散逸していたわけではなく、副葬品もない小さな棺に押し込められていたとしても「埋葬されていた」というのはキリスト教圏の死者の尊厳において重要だったのではないだろうか。
フィリッパにとって遺体探しはリチャード3世の実像を解き明かす通過点に過ぎず、彼女は現在もリチャード3世の実像を認知させる活動を続けている。彼女の活動が、歴史のロマンだけでなく真実や一次資料を重要視する姿勢に繋がることとを願ってやまない。