劇場公開日 2023年8月18日

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「どうなることかとハラハラジリジリさせる展開はよくできていましたが、唐突な終幕は驚くよりもキツネにつままれたように感じ」ふたりのマエストロ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5どうなることかとハラハラジリジリさせる展開はよくできていましたが、唐突な終幕は驚くよりもキツネにつままれたように感じ

2023年8月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

幸せ

映画『ふたりのマエストロ』作品レビュー

 クラッシックと映画が同時に楽しめるオーケストラ映画は大好きです。しかも『オーケストラ』(2009)や『ラフマニノフ ある愛の調べ』(2008)など名作が多々あります。
 数々のオーケストラ映画の中でも、本作の音楽面のクオリティは高いと思います。先ずはラストを飾る世界最高峰〈ミラノ・スカラ座〉の豪華絢爛、大迫力の熱い演奏シーンは必見です。

 主人公ドニを演じるのは『ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール』で実生活でも夫婦であるシャルロットと共演・監督を果たしたイヴァン・アタル。ピエール・アルディティやミュウ=ミュウなどフランスを代表する名優たちが家族の葛藤を見事に描き出す。監督は俳優としても活躍するブリュノ・シッシュ。プロデューサーにはアカデミー賞作品賞受賞『コーダ あいのうた』のフィリップ・ルスレらが参加しています。

■STORY
 フランスのクラシック界で、父子で活躍する指揮者のフランソワ(ピエール・アルディティ)とドニ(イバン・アタル)。ある日、フランソワに世界最高峰のミラノ・スカラ座から、音楽監督を依頼する電話が入る。歓喜するフランソワ。しかし、実際に依頼されたのは息子のドニで、父への連絡は誤りだった。ドニは父に真実を伝えなければならず苦悩するという物語です。

■さらに詳しく
 父も息子も、パリの華やかなクラシック界で活躍するオーケストラ指揮者の親子。父・フランソワは、40年以上の⻑きに渡り輝かしいキャリアを誇る大ベテラン。ひとり息子のドニ(イヴァン・アタル)も、指揮者としての才能を遺憾なく発揮し、今やフランスのグラミー賞にも例えられるヴィクトワール賞を受賞するほど破竹の勢い。だが、栄えある息子の授賞式会場に、父の姿はありませんでした。祝いの言葉のひとつもよこさない父の素振りに呆れ果て、受賞パーティもそこそこに、恋人のヴァイオリニスト・ヴィルジニ(キャロリーヌ・アングラーデ)との情事に耽るドニ。
 いっぽうのフランソワも「自慢の息子さん、快挙ですね!」と仕事仲間からたびたび煽られることが癪に触り、「今日の演奏は最悪だ!」と周囲に当たり散らす始末。そんなある日の練習中。突然、父・フランソワの携帯電話が鳴るのです。それは夢にまで見た世界三大歌劇場であるミラノ・スカラ座の音楽監督への就任依頼でした。
 奇しくもこの日は、フランソワの誕生日。彼の妻でドニの母・エレーヌ(ミュウ=ミュウ)や、ヴィルジニらが一同に会した誕生パーティは、一転して「スカラ座に乾杯!」と、家族全員が父の快挙を祝福する最高の一夜となったのです。
 しかし、歓喜の美酒に酔い痴れる老いた父の様子に、息子の表情はみるみる険しくなっていきます。やはりこの日も、父と息子の間には、相変わらずの不協和音が鳴り響いていました。
  翌日、息子はスカラ座のマイヤー総裁に呼び出され、父への依頼は“デュマール違い”で、実はドニへの依頼の誤りだったことを告げられます。驚きを隠せずに動揺するドニ。彼は、スカラ座の音楽監督の重責を担うには、まだ経験不足のため依頼を固辞したいという思いが強かったのです。
  いっぽうの父は、ドニの高校生のひとり息子・マチュー(ニルス・オトナン=ジラール)の自動車教習所代や、ACミランのシーズン・チケットまでいつの間にか手配していた。そんな浮き足立って大盤振る舞いしている父に、真実を伝えなければならないという難題を課されたドニは、人生最大の窮地に立たされます。やがて、初めて親子が腹を割って本音で語り合うためにシャンパンを傾けたとき、父の口からこれまで語られなかった衝撃の真実が明かされるのです……。

■感想
 輝かしいキャリアを誇る大ベテランと、才能にあふれ飛ぶ鳥を落とす勢いの実力派。父子はライバル同士のためか、互いに打ち解けられません。2人の葛藤、それを包み込むフランソワの妻。三者三様の深みある演技が見どころでした。
 そして2人の葛藤の根底にあるのが、ライバル関係ばかりでなく、ドニの出生の秘密にまで話が及んで、修復不能にまで父子の不協和音は高まります。
 しかし、フィナーレのコンサート場面でわだかまりを一掃されます。それは圧巻というより驚きが先んじる展開でした。互いが心を開いたかは定かではありませんが、タクトで語り合う親子の会話が想像でき、高揚感が押し寄せてきました。
 但し、数十年来の夢が間違い電話でぬか喜びとは、老いたフランソワにはキツい話です。誤解を解くよう託されたドニも可哀そうです。どうなることかとハラハラジリジリさせる展開はよくできていましたが、唐突な終幕は驚くよりもキツネにつままれたように感じました。演奏場面は心地けれど、それでメデタシと言われてもねぇ~(^^ゞ

■本作で使われている名曲について
 モーツァルトやラフマニノフらの名曲も彩り、音楽への深い愛情も十二分に感じさせる一本でした。
・ブラームス「間奏曲第7番」
・ベートーヴェン「交響曲第9番」
・シューベルト「セレナーデ」
・ラフマニノフ「ヴォカリーズ
・モーツァルト「フィガロの結婚 序曲」
・ドヴォルザーク「母が教えてくれた歌」
・モーツァルト「ヴァイオリン協奏曲第5番」ほか多数
 なかでも凄く感動したのが、エンディングで流れた、オーケストラ編成でのシューベルトの『セレナーデ』です。これは素晴らしい演奏でした。
 「ダララダー」という低い音を奏でる曲は、しっとりとしたエンディングにぴったり。 父と息子との関係を描く上で、しっとりとした雰囲気を感じさせるシーンが多かったことを思い出させてくれる感じがしました。一定のリズムを刻みつつ、弦楽器の音が処々に入っていく演奏と共にスタッフロールが流れました。
 劇中ドニの彼女が弾く同曲の練習シーンで、あまりに無機質で感情のこもっていない演奏を見せつけられていたので、余計にそう感じられたのかもしれません。
【参考】シューベルトの『セレナーデ』(チェロ独奏)
※リンク不可なので検索してください。

【小澤征爾も登場!】
 劇中ドニがスカラ座の演奏を聴くシーンで、指揮していたのは小澤征爾でした。流れた曲は、Giulio Cacciniの『Ave Maria』です。
 ドニはフランソワに「指揮者に選ばれたのは自分だった」と言えずにいるなか、小澤征爾が指揮するスカラ座の演奏を見ていましたのです。これも素晴らしい演奏と音です。
【参考】『ふたりのマエストロ』本編映像_スカラ座で指揮する小澤征爾の映像が登場!
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【参考】映画『ふたりのマエストロ』予告編
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流山の小地蔵