「次は私?!」イノセンツ かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
次は私?!
大規模マンション内で起きる連続殺人事件、超能力少年少女たちによるサイキック・バトル、そして問題のラストシーンが、大友克洋による漫画『童夢』にそっくりだという。監督のエスキル・フォクト本人が白状しているので間違いないだろう。私は本作を観ていてパク・フンジョン監督の『The witch』をふと思い出したのだが、ド派手なアクションの代わりにこの映画、恐怖がジワジワと忍び寄ってくる北欧らしい静かな雰囲気が特徴だ。
自閉症の姉アナを持つ妹のイーダ、テレパシー能力に優れたアトピー少女アイシャ、そしてアナと同等のサイコキネシスが得意技のベン。ほぼ育児ネグレクト状態のベンは近所の子供たちから除け者にされているられっ子で、引っ越してきたイーダに自分の能力を見せて友だちになる。アイシャは言葉が喋れないアナの気持ちを伝える通訳のような存在で、超能力ごっこで盛り上がった4人はすっかり意気投合仲良しに。しかし、心に闇を抱えていたベンは次第に狂暴化、女子3人でなんとかベンの暴走を食い止めようとするのだが...
4人の中で最も強力な能力を持っているのが、実は自閉症のアナであり、さすがのベンも一対一の勝負では歯が立たない。しかしこのアナ、アイシャのヘルプがなければ喋ることもままならず、肝心な時に「ウ~ん、ウ~ん」うなってるだけてまったく役に立たない。このじれったさが実に効いていて、静かなトーンながら緊張感が常に場を支配しているのである。身の危険を察知したノンケ少女イーダはベンをノラネコ戦法?で排除しようとするのだが.....
アナの血を引いているイーダ、そしてマンションの窓から、アナ姉妹vsベンのラストバトルを観戦していた子供たちも、おそらく超能力者だったのではないか。つまり、北欧の森に佇むこのマンションは超能力者の子供たちだらけだった、という設定だ。彼ら彼女らはアイシャやベンのように、移民のワンオペ家庭で親から満足な愛情を注いでもらっていない子供たちだったのではないだろうか。この点、両親がちゃんと揃っているイーダ姉妹の家族とは若干異なっているのである。
親に潰されそうになった子供は大人の気持ちを読むようになると、『ナイトメア・アリー』のインタビューでギレルモ・デル・トロが語っていたが、ベンやアイシャの場合もまさにそれ。現在3組に1組が離婚している日本においても、親の愛情に飢えている子供たちがおそらく急増中のはずであり、もしかしたらもしかするのである。恐るべき宿敵をやっつけて一件落着の姉妹だったが、今度はママの愛情をめぐって仁義なきサイキックバトルを繰り広げるのかもしれない。「次は私?」なんたって超能力に目覚めたイーダには前科があるのだから。