「改変によって爆変した傑作」名探偵ポアロ ベネチアの亡霊 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
改変によって爆変した傑作
字幕版を鑑賞。主演俳優のケネス・プラナーが監督と製作も兼任したアガサ・クリスティの名作のリメイクで、「オリエント急行殺人事件」「ナイル殺人事件」に続く3作目である。
クリスティの原作は「ハロウィン・パーティ」で、イギリスの田舎を舞台として、少女の死亡事件をポアロが推理で解明する話である。伏線と回収こそ多いものの、メルヘンチックで他作品のような劇的展開にはやや乏しいのが気になっていたが、舞台をヴェニスにして登場人物にも大きく手を入れることによって非常にホラーテイストで劇的で面白い作品に変貌を遂げていた。ホラー描写もかなり上出来だった。
今作のポアロはいつになく冴えがなく、合理主義者のはずなのに亡霊の姿や声に怯えるようなシーンが目につく。実はそれも犯人の仕掛けによるものなのだが、見ている方まで心配してしまうほどだったのは、観客がまんまと監督の罠にハマったことになる。非常に秀逸な方法だと思った。
暗い場面が多いが、それでもヴェニスの美しさは十分に感じられた。それもそのはずで、舞台となった建物は出来合いのものではなく、この映画の撮影用に、蝋燭での撮影が綺麗にできるようにとわざわざ建てられたものだそうである。原作通りに舞台がイギリスの田舎だったらこの味わいは出せなかったに違いない。「オリエント急行」と「ナイル」での改変は僅かだったので、リメイクの意義がどの辺にあるのかと思わずにいられなかったが、今作はリメイクによって爆変したと言っていい。
怪しげな霊媒師役にアジア人初のアカデミー賞女優となったミシェル・ヨーを起用するなど、俳優陣が実力者揃いなのは、製作に名を連ねたリドリー・スコットの手腕かも知れない。誰一人として凡庸な役がなく、いずれも印象強かったのはまるでシェイクスピア劇のようだった。
通常の映画より音楽が鳴らされる場面が少なかったのは、見る者に当事者意識を強く持たせるためだろうが、劇中で流される音楽は雰囲気をよく保っていた。作曲者は誰かと思えば、「ジョーカー」でアカデミー作曲賞に輝いた女流のヒドゥル・グドナドッティルだった。流石だと思った。
謎解きよりもホラー描写に力を入れたような作風は好き嫌いがあるかも知れないが、演出の意図は一貫していた。建物から思い通りに作ってしまうほどの、この監督の意図が汲めない人だけが貶しているのだと思う。
(映像5+脚本5+役者5+音楽5+演出5)×4= 100 点。
アラカンさん、初めまして。
私も傑作と思いました。
一切無駄のないカット。これ本当にシビれました。
私的には頓知の利いた洒落た作品だなと。
オープニングとエンディングが本当に最高で、思わずにやけてしまいました。