「内容はぺらっぺら」ザ・クリエイター 創造者 Ellさんの映画レビュー(感想・評価)
内容はぺらっぺら
映画.comのレビュー評価は3.7になっていたので期待して観に行ったのですが、ちょっと期待外れでした(配給元はディズニーだし、評価点の操作みたいなことしてるんじゃないかと疑ってしまうほど)。観ながら突っ込みまくりなので、没入感ゼロです。完全な駄作とは言えないけれど、予算をたくさんつぎ込んだB級SF映画。映像は綺麗で、CGとかすごいんだけど、世界観が広いようでめちゃくちゃ狭いw 映像美がなければ1.5ぐらいしか評価できないレベル。
この映画の問題点を端的に上げるなら
・登場人物の心情変化の描写が不足していて、彼らの行動に説得力がなく、薄っぺらく感じてしまう
・ツッコミ待ち満載な脚本の拙さ(上記の原因でもある)
・アジア圏への潜入捜査とかいう割に主人公が特に理由もなく黒人(潜入捜査なら目立たないアジア系アメリカ人を送り込むのが本来のセオリーだけど、それじゃ映画が売れないと踏んだのか)
・うがった見方をしてしまうと、アジア人差別にも取れる内容
・アメリカ対ニューアジアという壮大そうな規模なのに、実際は東南アジア(とその上空)といった狭い範囲で話が展開し、スケール感が小さい
・AIだなんだと言ってる割に、テクノロジーレベルがあべこべ
印象としては、攻殻機動隊のような日本のSFアニメに影響を受けてAI寄りの作品を作りたかったけど、そこに哲学的に語りたい核となる信念みたいなものがないから、ぺらっぺらな中身の薄味な作品に仕上がっている感じです。
(最後の出演者紹介のときに画面にカタカナ出るけど、これって日本版のみなのかしら。韓国上映ではハングルで出ているのかな?海外版全部カタカナなら日本アニメ意識している説強くなるけど)
以下は、ちょいちょいネタバレ含む辛口寄りな内容が続きますので、まだ観てない人はここまででお願いします。
さて、AIと人間の戦いとか謳ってますが、AIに偽装させてるだけで、「アジア人対アメリカ人の戦い」もしくは「アメリカによるアジアの侵略」みたいな内容になってます。AIを殲滅するためにアジア圏にずかずか侵攻してくるアメリカが無関係なニューアジア人含めて攻撃しまくるところは、なんとなく今ちょうどタイムリーな中東の紛争に近いものがあります(ハマス殲滅狙いなのに直接関係ないパラスチナ人まで巻き添えみたいな。ちな、ニューアジアとしての日本はまったく出てきませんが、どうなっている設定なんだろう。AI殲滅にやっきになっているアメリカに早々に滅ぼされたり占領されたりしているのだろうか…w)。
で、敵がAIで、AIが脅威なのは人間より優秀な「種族」だからと冒頭で言ってる割に、そのAI側のテクノロジーがしょぼくすぎる。時代設定も2064年で、AIが社会の一部に溶け込んでいる設定のニューアジアとやらの風景はベトナム戦争時代で時が止まっているのかというぐらい貧しく、汚く、ローテク。共存は出来ていてもAIを全然駆使できてないよ!(これって、ある意味アジア人を馬鹿にしてない?w)。チベットの僧侶までAIロボ化してるし、意味が分からないw
後、渡辺謙扮するAIロボが「我々は人間を殺すことなどできない」みたいなセリフを言うシーンがあるんですが、そのちょっと前にドンパチやっててアメリカ人側に死者出てるし、ケンさんロボも時限爆弾みたいなの使うし、「はぁあっ?!」って声出ちゃうよね。この世界ではロボット工学三原則は存在しないようです。
そして肝心の物語なんだけど、流れに説得力がない。まず主人公とAI側の最終兵器とされる少女AIとが心を通わせる過程がまったくないのに、後半のある時点でいつの間にか愛してる感じになっちゃう。描写不足か演技がかみ合っていないのか、主人公と少女AIとの間に疑似的な親子のように惹かれ合うような空気感の醸成過程がない。主人公が最初の方は嘘ついたり、脅迫したりと、なんか好きになれないというのもある(そういうことやっててもどこか憎めないような空気にもっていける役者もいるとは思うのだけど…)。最初の方の話の流れをもうちょっと違うものにしていれば、疑似親子的なものに持っていけたと思うのだけど(ターミネーター2なんか疑似親子感の構築に成功している例)。端的に言って、脚本が悪い。
後、後半の最初のとある重要なシーン、主人公が愛する女性を前に重大な決断をするシーンがあるのだけど、十分な葛藤の時間を取らずにささっと終わらせてしまう。えー?!確認も十分せずに納得しちゃって、そんな短時間の躊躇いで決断しちゃうの?!そこもっと苦悩するシーンとか入れないとだめじゃないの…? 愛が薄っぺらい。最後に主人公が恋人(もどき)と再会する流れも、もう脱力しか感じない。脚本と演出がひどい。
少女AIもかわいいのだけど、新たな知的生命体としての描写がないまま進むので、「モノだけど魂が宿っている」という共感を観客に抱かせることに失敗している。やはりこの少女と主人公の出会いをもっと早い段階にして、疑似親子的な関係をしっかり構築するべきであったと思う。単にSFチックなダライラマ降臨みたいなのをやりたかっただけではないだろうか。もっと練って欲しかった。
ニューアジアへの潜入が黒人って無理ですよね。ジョン・デビット・ワシントンもどこが良いのかわかりませんし。
アジア系米国人として西島秀俊とか韓国のコン・ユとかだったら感情移入できて良いメロドラマになったたかもしれません。