「人間とAIとの共存について、今一つ希望が感じられない」ザ・クリエイター 創造者 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
人間とAIとの共存について、今一つ希望が感じられない
冒頭、いきなり「ニューアジア」の設定や描写に引っ掛かって、物語にすんなりと入り込めない。
AIを受容する国家というのは分かるのだが、そこには農民や警官がいるだけで、政府の指導者や軍隊が出てこないのはどうしてなのか?彼らが、なぜ、核攻撃を受けてもAIを擁護しようとするのかが分からないし、普通の軍隊があれば、対空ミサイルの集中攻撃で「ノマド」を容易に撃墜できるように思えるのである。
監督の日本愛は痛いほど伝わってきて、それはそれで嬉しいのだが、「ニューアジア」には、断片的なアジアのイメージをごった煮的に詰め込んだだけのような印象しかなく、人類とAIが共存する理想郷を具現化できなかったのは残念としか言いようがない。
主人公の行動にしても、妻を捜すために、子供の姿をしたAIを利用していたはずなのに、いつの間にか、祖国を裏切ってまでその子を守るようになる、その理由がよく分からない。
渡辺謙演じるAIから、「核爆発は人間のミスで、AIは人間を攻撃しない」と聞いたからなのかもしれないが、そんなことは、潜入捜査をしていた時に当然聞いていただろうし、「ニューアジア」も同じような主張をしているに違いない。
なぜ、今になって、いきなり主人公が考えを改めたのかが、まったく納得できないのである。
ついでに言えば、AIが寝ることにも、その時、簡単にスイッチを切られてしまうことにも納得ができない。
終盤、「ニューアジア」での最後の戦闘で主人公と子供のAIが西側に回収されてから、「ノマド」に潜入するまでにモタモタと時間がかかり、冗長で間延びした感じになっているのもいただけない。
ロサンゼルスで子供のAIをスタンバイ状態にしたり、月行きの旅客機を乗っ取ったりするシークエンスを省略すれば、もっと、畳み掛けるようにテンポ良くクライマックスに突入できたのではないだろうか?
そして、何よりも残念だったのは、死者の脳をスキャンした記憶をAIに移植するというアイデアが、ラストで十分に活かされなかったということである。
せっかく、こうした仕掛けがあるのなら、主人公とAIの妻が、死ぬ間際に抱き合うためだけに使うのは、あまりにも勿体ないので、やはり、この場合は、主人公と妻と子供の3人全員が助かって、人間とAIが疑似家族を構成しながら幸せに暮らすといった結末にした方が良かったのではないだろうか?
その方が、人間とAIとの共存ということについて、希望が感じられるエンディングになったと思えるのである。
確かに、話の繋がりが悪く、チグハグに感じるところが多かったですね。監督のやりたかったことが多過ぎて、それを纏めきれずに泣く泣くカットしたシーンも多そうですね。