「60年代以前のR&Rの伝説が集い70年代以降のロックが胎動した奇跡の記録」リバイバル69 伝説のロックフェス 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
60年代以前のR&Rの伝説が集い70年代以降のロックが胎動した奇跡の記録
1950年代から70年代にかけての英米ロックシーンに興味がある音楽好きなら見逃せない一本だ。音楽フェスの企画から準備、出演アーティストが決まっていく過程もドタバタ喜劇のようで、運とタイミングに恵まれていたのはもちろんだが、1969年という時代のエネルギーと大らかさも感じさせる。
Disney+で配信されたドキュメンタリー「ザ・ビートルズ Get Back」でも示されたように、1969年1月にビートルズはスタジオセッションと屋上コンサートを実施(これらの音源が彼らのラストアルバム「レット・イット・ビー」になる)。さらに8月には「アビー・ロード」(発売は「レット・イット・ビー」の前になった)のスタジオセッションを終えている。ジョン・レノンにとってこの年の9月は、ビートルズとしてやれることは一通りやり尽くした後で先のスケジュールも決まっていないし、ヨーコとのんびり過ごしつつ、何か面白いことがあれば……くらいの感じだったのではなかろうか。そんな頃合いで、ジョンたちが音楽に夢中になるきっかけになったロックンロールの先駆者たち、デビュー前からビートルズ初期まではカバー曲の演奏や録音もしていた憧れのレジェンドが多数出演するというフェスから打診が来たのだ。企画側からすればものすごい幸運に恵まれたわけだが、ジョンやクラプトンなどプラスティック・オノ・バンドのメンバーたち、ドアーズの面々などもやはりレジェンドたちと同じステージに立てて単純に嬉しかったのだろうと思う。
それと、出演者や裏方で関わった人たちのインタビューも多数あるが、単に彼らの回想コメントを映すだけでなく、シンプルなアニメーションで補う演出もいい。ビートルズのアルバム「リボルバー」のジャケットデザインで知られ、プラスティック・オノ・バンドのベーシストとしてもフェスに出演したクラウス・フォアマンのタッチに寄せたようなシンプルな線で描くキャラクターと、アニメ映画「イエロー・サブマリン」を意識したようなカクカクした動きもレトロ感があって好ましかった。
結果的にこの日の演奏がソロ活動のキックオフになったジョンをはじめ、クラプトン、ドアーズ、アリス・クーパー、シカゴら70年代以降のロックシーンを彩る面々が出演している点でも、音楽史的価値のあるイベントだったことがよくわかるドキュメンタリーだ。