「朝が来る」違国日記 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
朝が来る
映画は新星発掘の場でもある。
また一人、フレッシュな逸材が誕生。
早瀬憩。
ちょいちょいTVドラマや映画に出ていたようだが、大役は初。
1000年に一人級の美少女ではない。演技もまだ拙い。
が、今この瞬間を捉えた初々しさ、ナチュラルさは特別。
思春期特有の複雑な感情の揺らぎ、ひたむきさ、懸命さも伝わってくる。歌声も披露。
年末の新人賞に期待!
作品も少女の成長やこれからを背中押ししてくれる温かさと優しさに満ちている。
中学卒業直前、母親を交通事故で亡くした15歳の少女・朝。
葬儀中、親戚の間でたらい回しにされそうな話が…。
そんな時引き取りに名乗り出たのは、母の妹の槙生。
小説家として活躍する35歳の若いおばだが、人見知りで人嫌い。母(姉)とは絶縁状態。引き取ると言ったのも姪への情愛からではなく、見かねてつい勢いで…。
言った手前、取り消しは出来ず。一つ屋根の下で一緒に暮らす事になるが…。
疎遠だった親族があるきっかけで一緒に暮らす。
映画ではよくある設定。展開も大方予想付く。
それをどう魅せられるか。演者や監督の手腕に懸かる。
瀬田なつき監督やガッキーや新星・早瀬憩らは心地よく魅せてくれた。
35歳。不器用女。
15歳。多感な少女。
この設定がミソ。まあ円滑に行く訳がない。
母との関係を聞こうとする朝。が、槙生は一切NG。
槙生は朝に事前に言っておく。あなたの母親が嫌いだったから、あなたを愛せるか分からない。
ちょっと壁ありのドライな関係。
笑い合ったり、ほのぼのの時もある。
かと思えば、些細な事で言い合い。気まずく…。
が、翌日には何事も無かったように。そしてまた言い合い。また平常に…。
お互い必要以上に気遣ったり、仲良しこよしじゃない微妙な関係が絶妙。
見ていて微笑ましく、もどかしさも。
おばと姪の間柄だが、ちょっと違うような。もっとそれ以上な。
大人と子供。対等の女同士。少し似た者同士でもある。
そんな距離感。ズレや溝。関係を深めていく様…。
ガッキーと早瀬憩が素晴らしく体現。
早瀬憩については先んじて触れたので、ガッキー。
いつものキュート&スマイルを封印したガッキーがいい。『くちびるに歌を』『正欲』に続くシリアス好演。
可愛いだけじゃない。これがガッキー…いや、女優・新垣結衣の実力だ。
二人を取り巻く人間模様も素敵。
槙生の(唯一の)友人役の夏帆。これまた素を思わせるナチュラル演技。
3人で餃子パーティーのシーンは撮影じゃなくまんまオフ会でしょう。
ガッキーも夏帆も10代の頃から見ていた。そんな二人が今は見守る側に回って…感慨深い。
朝の友人・えみり。序盤、ある事で喧嘩。が、すぐに仲直り。これこそ青春。えみりは朝にある秘密を打ち明ける。これこそ親友。
演じた小宮山莉渚は正統派の美少女タイプ。こちらも今後が楽しみ。
本当に温かい作風で、ゆったりと流れていく。
身を委ねたくなる一方、劇的な展開は起こらず、130分強長く感じてはしまう。
が、瀬田監督の繊細で透明感ある演出、映像美や音楽はヒーリング効果すらある。
ただの癒しだけではなく、しっかりと悩みやエールを送ってくれる。
卒業直前の不幸。つい友人が学校に話してしまい…。
普通に卒業したかっただけなのに…。
周りの腫れ物にでも触るような反応がイヤ。
誰も私の事を思ってくれない。
母親との関係は良好。時々厳しかったりもしたが、いい母親だったと思う。
そんな母親が突然いなくなった。まだまだ一緒にいると思ったのに…。
その喪失感は周囲の慰めだけで埋められるもんじゃない。母親の幻影を見るほど。
槙生だけは違った。過剰な同情や慰めはしない。
こういう時嘘でも母親とは関係悪くなかったと言いそうな所を、はっきりと、大嫌いだった。
不思議な人。変わってる人。ちょっと大人としてダメダメな所もある。
でも、自分に正直。朝にも正直。不器用ながらも向き合ってくれる。
人見知り人嫌いな槙生だけど、案外面倒見はいい。彼女に引き取られて良かったかも…?
いや、良かったのだ。今の心境、学校や部活や友達の事で朝が悩み顔をしていた時、さりげなくアドバイスとエール。
何故だろう。しっかりとしたパーフェクトな大人から言われたって聞きたくない。
ちょっとダメな所もある人から言われた方が響くのだ。例えば寅さんとか。
この人も自分と同じ。似てる所がある。だから、分かってくれる。
やりたい事をやればいい。
あなたと私は違う人間。一人一人、違う人間。それでもいいんだ。
決してあなたを踏みにじらない。
説明不足や物足りなかった点もある。
槙生と姉の関係。槙生は姉が朝に宛てた日記を預かり、それを1ページ読んだだけで閉じてしまうほど嫌い。異常なほど。一体二人の間にどんな確執が…? 一応語られるのだが、あ、そんなもん…って感じ。うるさ姉と不器用妹、ソリが合わず。
しかしその日記がグッとさせられる。
“朝”という名前の由来。これ、素敵だなぁ…。
母の思い。槙生の見守り。
それらを一心に受けて。
朝が来る。それは必ず来る。
そして新たな私が始まっていくんだ。