「同盟」違国日記 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
同盟
「ゆっくりいこうや」
朝に投げかけたマキオの宣言が心地いい。
新垣さんの好演が光る。
内向的だが芯のブレない主人公がハマってた。ぶつ切りになる語尾もよくて…あんな美しいタイプに出会った事はないけれど、ああいう人いるなぁと思う。
早瀬さんも素敵だった。あの人懐っこい笑顔は天性のものだろうか。初々しかった。
さて、本作だけれども…
色々と深読みすると味わい深い題材に思う。
冒頭にマキオは言う。
「私とあなたは別人だから、理解なんてできない」
その通りだと思う。
が、両親を亡くした直後の15才には辛辣だ。
これ以降思うのは、大人が子供に及ぼす影響がこんなにも容易に浸透していくものなのかって事だった。
朝は母親とは別の価値観を育んでいく。語られるエピソードはその条約に則ったもののようにも見える。
小説家を生業とするマキオは、慎重に言葉を選んで話してるようにも思う。彼女が考える最大限の敬意を払ってるようも見える。
対等な同盟を締結しようとしている。
…過干渉をしないと言うか、独立国として認識してるようでもあった。
何かで読んだのだけど、人に腹が立つ原因の8割は「自分の言う通りにしない」からなのだそうな。相手に原因を押し付けたりするが、掘り下げていくとその思考に辿り着くのだとか。
つまりは自己肯定感を否定される事に起因するとか。
どこかで自分に幻想を抱いていて…親だから、上司だから、先輩だから、コイツより俺の方か優れてるから、そう言う優越感を相手に認めてもらえないから怒るのだそうな。
同時に相手にも期待するわけだ。変えてくれるだろう、やってくれるだろう、分かってくれるだろう、その期待感が裏切られるって感情もあるかもしれない。
その勝率の基準は常に「自分」だから諍いが起こる。
でも判断するのは「相手」なのだ。
別人が自分の基準を100%理解して判断する事はない。少なくともマキオはソレを踏まえて朝に向き合おうとしているように思う。
マキオの荒れ放題の国土は朝によって改善されていく。賢い子だなとおもう。人に得手不得手があるのを心得てるし合理的な思考だなと思う。
朝には朝で未知との遭遇だ。大人なのに大人ではない人がいる。元彼は言う「大人になっても大人がわからない」とかなんとか。激しく同意だw
ソファーに座る2shotで、マキオと朝がほぼほぼ同じようなリアクションをする。
もの凄く微笑ましい。
マキオは朝を受け入れているのだし、朝はマキオを慕っているのだろうなと感じられる素敵なカットだった。
体育館で同性と付き合ってると告白されたシーンでは、本心を指摘されたりする。人の価値観ってなぁ言葉尻に出るんだなぁとも思うけど、相手にソレを気づかせるのは傲慢にも思える。
海辺では「高代美里」について2人が語り合う。
朝は「朝のお母さん」としてマキオは「マキオの姉」として。
面白いなぁーと思う。
2人が語る人物像が全く重なってこない。
立場と関係性によってこんなにも違うのか、と。この会話自体が人の持つ多面性の証明でもあると思う。
だからこそ他人を理解する事など出来ないって結論にも至る。
じゃあ、人が分かり合える事はないのかって言うとそうではない。その答えを作品を通して朝とマキオが実践してくれているのだから。
属国にするのではなく同盟を結べばいい。
とても味わい深い一作だった。
3人で「夢の中へ」を歌う後ろ姿が可愛らしかったなぁ。
そうですね。異国よりは違国の方が柔らかい印象を受けますし、本作は同居が前提ですが、人との関わり合い方の初歩というかベースのような事なのかなぁと。
結果、敵国や属国になる事まあるんでしょうが、「分かり合えない」を前提に関係性を育む為にはみたいな事かなと見ておりました。