劇場公開日 2024年6月7日

「二人の生活をまだまだ観ていたい」違国日記 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5二人の生活をまだまだ観ていたい

2024年6月9日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

難しい

幸せ

原作未読ですが、新垣結衣さん主演ということで期待して、公開初日に鑑賞してきました。新人の早瀬憩さんの奮闘もあり、なかなか見応えのあるヒューマンドラマに仕上がっていました。

ストーリーは、折り合いが悪く疎遠にしていた姉を突然の事故で亡くした小説家・高代槙生が、残された姉の娘で中学生の田汲朝が葬儀の場で心ない言葉を浴びせられるのを見かねて、朝を引き取ることにして始まった同居生活の中で、しだいに変化していく二人の関係を描くというもの。

それまで親しい親戚付き合いをしていたわけでもない二人が、新たな生活の中で戸惑いながらも少しずつ心を開き、互いに影響しあっていく展開から目が離せません。大人である自分は常に槙生目線で観ていましたが、それでも彼女の心情をつかみかねる部分がありました。ましてや朝の心情はさらに複雑です。思春期真っただ中の不安定さ、親を亡くした悲しみ、その親を嫌う叔母との同居、慣れない生活の不安、周囲の気遣いの煩わしさなど、さまざまな感情が入り乱れていたことでしょう。

そんな中、一見ドライなようでも、小説家らしくシンプルに、飾らず素直に自身の思いを朝に伝える、槙生の接し方がとても印象的です。言うべきことは言い、話したくないことは話さない槙生の姿勢は、変なごまかしや言い訳をせず、朝を一人の人間として尊重しているようにも感じます。だからこそ、朝も少しずつ心を開いていったのでしょう。

とはいえ、今までほとんど接点のなかった二人が、簡単にわかり合えるわけもなく、かといって無理にわかり合おうともしません。それでも、知らず知らずに影響を受けているのは伝わってきます。自由を認めているようで実は選択の幅を狭めていた母の影響を感じていた朝が、裏のない言葉で朝の選択を肯定する槙生に背中を押されるように、自分の思いを言葉に出すようになります。槙生は、そんな素直な朝を通して、愛情いっぱいに娘を育て上げた姉の姿を感じたことでしょう。母から聞かされた話からは、自分の記憶にない幼き日の姉の姿が浮かびます。どんな母親だったのか、どんな姉だったのか、同じ人物を違う立場の人間が語り、そこに自分の知らなかった新たな一面が見えてきます。

姉妹と親子というそれぞれの立場で心に刻んだ異なる記憶、それはあたかも違う世界で記された日記のようだと、本作のタイトルは伝えているのかもしれません。だとすれば、槙生と朝は互いの日記を交換して読むかのように、これからも少しずつわかりあっていくのでしょう。そんな二人の生活をまだまだ見続けていたくなります。本作は、そんな二人の姿を通して、それぞれの人にはそれぞれの物語があり、それらは対立も矛盾もなく成立しうるものであり、わかり合おうと寄り添うことが大切なんだと訴えているのかもしれません。

主演は新垣結衣さんで、自然体で生きる槙生を体現するかのような抑制した演技がすばらしいです。もう一人の主演の早瀬憩さんも、新人らしい初々しさとみずみずしさで朝を好演しています。脇を固めるのは、夏帆さん、瀬戸康史さん、小宮山莉渚さんら。

おじゃる
トミーさんのコメント
2024年6月11日

共感ありがとうございます。
最近の新垣さん、絶妙な生活感が出て来てちょっと残念な役はお手のものって感じですね。作品の出演頻度も今位がいいと思います。

トミー