カンダハル 突破せよ : 特集
身バレしたCIAスパイ、敵地のド真ん中で孤立無援…
敵多すぎ! 時間なさすぎ! 救出地までの距離遠すぎ!
無理ゲー過ぎる大ピンチ…果たして生きて帰れるのか!?
実体験に基づくスパイアクション映画の最前線を観よ!
スパイ映画やアクション映画というジャンルでは、ミッションが不可能であればあるほど、主人公がピンチになればなるほど、往々にして観る側のボルテージは上がっていくものだ。そんな作品を求める観客を満足させてくれる、絶望しかない注目作「カンダハル 突破せよ」が、10月20日に封切られる!
もったいぶらず結論を先に伝えよう――こんな“絶望設定”、「アルゴ」よりも「300」よりも無理ゲーだ! ジェラルド・バトラーが演じるCIAスパイが、敵地のド真ん中でまさかの身バレ。生き残るには、正体を知り追いかけてくる無数の敵をかわしつつ、タイムリミット30時間で、400マイル先の救出地点にたどり着かなければならない。
「すげえ無理ゲーじゃん!」と叫びたくなるほどの状況、果たして生きて帰れるのか――。この記事では、本作を実際に鑑賞した映画.com編集部員が、「ストーリー」「アクション」「人間ドラマ」という3つのパートに分けて、見どころを熱弁する!
ジェラルド・バトラー史上、最高難易度のミッション
スパイ映画は数あれど…いまだかつてない“絶望設定”
ホワイトハウス占拠、クーデター部隊との潜水艦バトル、果ては巨大彗星の地球直撃……数々の危機を乗り越えてきた孤高の俳優、ジェラルド・バトラー。本作で演じるCIAスパイ、トム・ハリスが置かれる過酷な状況とまさかの“生存条件”は、まさに「バトラー史上、最高難易度」と言えるほど――!
[あらすじ]イラン核施設を爆破したCIAスパイ、静かに帰還するハズが…
その直後、全世界に顔と名前が晒された!→生き残りをかけた脱出劇スタート
イラン国内に潜入中のCIA工作員トム・ハリス(バトラー)は、核開発施設の破壊工作に成功。娘の卒業式に出席するため静かに帰還するハズが、CIAの内部告発で機密情報が漏洩し、全世界に顔と名前が晒される。
即刻ミッションを中止し、中東からの脱出を図る彼が目指すのは、400マイル離れたアフガニスタン南部のカンダハルにあるCIA基地。そこを30時間後に離陸する飛行機に乗らなければ、生き残るチャンスはない。トムは、アフガニスタン人通訳モー(ナビド・ネガーバン)とともに基地へと急ぐが、行く手には様々な勢力が立ちはだかり、敵・味方が入り乱れるカオスな死闘と追跡劇が繰り広げられる。
●修羅場をくぐり抜けてきたジェラルド・バトラー、今度ばかりは生き残れるか!?
ハードルが高すぎて突っ込まざるをえない、4つの“絶望設定”
あのジェラルド・バトラーでも「今度ばかりは生き残れるのか!?」と心配になるほどの状況が、観る者を震え上がらせる。この項目では、彼の身に降りかかる4つの“絶望設定”を見ていこう。
[絶望設定1]ヤバすぎ! 超極秘任務のハズが…敵地のド真ん中で身バレ[絶望設定2]敵多すぎ! 目的&立場の違う“ヤツら”がノンストップで襲来[絶望設定3]時間なさすぎ! タイムリミットは30時間[絶望設定4]距離遠すぎ! 救出地までは広大な砂漠400マイル(約640キロ)まずお伝えしたいのは、本編が始まって割とすぐに、トムがヤバい状況になる。どれくらいヤバいかと言うと“マジヤバい”。特大の極秘任務をやりおおせた直後、正体が全世界に晒されたのだ。
当然、敵がトムを執拗に追ってくるが、敵も敵で一枚岩ではなく、背景も信念も目的もばらばらだったりする。核施設を爆破され、国家の威信をかけてやってくるイスラム革命防衛隊の精鋭集団・コッズ部隊。絶好の“金づる”になるトムの捕獲に乗り出すパキスタン軍統合情報局(ISI)。さらにはタリバンの息がかかったゲリラ、金次第でなんでもやる武装集団まで――危険な“ヤツら”が代わる代わる(しかもノンストップで)襲来し、ときに敵同士が戦い、敵が味方になるなどすさまじいことになっていく。
トムの“生存条件”は、30時間以内に、400マイル先の救出地点から飛び立つ飛行機に乗ること。400マイル(約640キロ)といえば、東京から岡山までの距離(約670キロ)と同じくらい。休憩も睡眠も十分にとれず、車か徒歩で、そんな距離を進まなければならない。
当然、味方に見捨てられる可能性もゼロではない。そこに上述の敵が大挙して押し寄せるのだから、脱出どころかすぐさま現実逃避したくなる、過酷なシチュエーションだ。映画館で体感すれば、心拍数の指数関数的上昇は間違いない。
リアルアクションが超新鮮! 闇夜のヘリ襲撃は必見!
さらに車、バイクも…四方八方から敵→安全地帯なし!
本作は元諜報員が自身の実体験をもとに脚本を執筆している。だからこそ、この上なくリアルであり、リアルゆえに“映画では逆に見たことのないようなアクション”が、劇中では次々と誕生している。この項目では、アクションのオリジナリティと、そのクオリティの高さを体感してほしい。
●[すさまじいリアリティ]米国防情報局員が、実体験をもとに脚本執筆
「エンド・オブ・ステイツ」「グリーンランド」の名コンビが3度目タッグ
本作では「エンド・オブ・ステイツ」「グリーンランド 地球最後の2日間」のジェラルド・バトラー&リック・ローマン・ウォー監督の名コンビが3度目のタッグ。アクションの質の高さを保証するにあまりある、アクション映画ファンを唸らせる最高級の布陣だといえる。
物語のベースとなっているのは、元アメリカ国防情報局の職員としてアフガニスタンに赴任していたミッチェル・ラフォーチュンの実体験だ。彼は、映画「スノーデン」などでも描かれた、元CIA・NSA局員のエドワード・スノーデンによる内部告発・漏洩事件のあった2013年に赴任していた。
ラフォーチュン自身が脚本を書き下ろし、現実の出来事が根底にあるからこそ、スクリーンからはすさまじいリアリティが滲み出し、アクションを別の次元へと引き上げている。
●カー&バイクチェイス、空中戦、銃撃戦…あらゆるフィールドが“戦場”に
暗視スコープ越し、闇夜のヘリ襲撃 「見たことない」アクションに驚がく
主人公のトムとモーは、カンダハルまでの旅路を車でひた走るが、追っ手が常にいるため、基本的にはずっとカーチェイス状態。国家を背負うコッズ部隊のファルザド・アサディ(バハドール・フォラディ)が無数の車やヘリで、クールなISIエージェント・カヒル(アリ・ファザル)がバイクで、トムたちの行く手を阻む。カー&バイクチェイス、空中戦、銃撃戦がノンストップで畳みかけられ、あらゆるフィールドが“戦場”と化しているのだ。
なかでも圧巻なのは、トムたちが闇夜に武装ヘリと繰り広げる死闘。非常に派手な戦闘ゆえ、普通は昼間などの明るい画面で“魅せたい”シーンだろう。しかし本作ではあえて闇夜の奇襲を描き出し、暗視スコープ映像を挿入することで、観客もヘリの刺客に狙われているかのような究極の臨場感を演出しているのだ。
さらにトムとモーの荒い息遣いの音響や、立ち上る砂塵のひと粒ひと粒をも“感じられる”映像は、えげつない緊迫感の演出にも成功。観客を唸らせるであろう、観たことのないアクションが、スクリーンにはっきりと焼きつけられている。
スパイ&通訳の絆…登場人物に共感必至
人は報復の連鎖を止められるか――響くメッセージ
それでは記事の最後に、特徴的な見どころのほかに“観てよかった”ポイントをネタバレなしでご紹介。スリリングなストーリー展開と迫真のアクションの根底には、良質な人間ドラマが脈々と流れているのだ。
●報復の連鎖:死線を越えて描かれる共感と対立が、先の読めないヒューマンドラマを紡ぐ
本作で特筆すべきなのは、トムやモーを人間味たっぷりに描いている点だ。ふたりには当然、それぞれ背景、信念、目的、立場、家族があり、戦う理由がある。その心根に触れれば時に彼らの境遇に強い共感を覚えるかもしれない。
トムは「仕事のために家庭を犠牲にしている」というよりは、「この生き方しかできないのに家庭を持ってしまった哀れな男」のように見える。それでも娘の大学卒業を見届けるために、この地で死ぬわけにはいかない。モーは、テロリズムと悪どいビジネスにより、息子や大切な人を殺された憎しみを、その枯れかけた体の奥底に宿している。
トムとモーは自身の境遇を語り合ううち、次第に絆を深めていくが、彼らが象徴するテーマは実のところ“報復の連鎖”である。映画の中盤、ふたりはひょんなことから、モーの息子を殺害した勢力に匿われることになる。いつでも寝首をかける距離に、何度も殺してやりたいと思った宿敵がいる。果たしてどうなる――。
「グリーンランド 地球最後の2日間」では48時間後に地球が滅亡する状況下での“人間”を描ききったリック・ローマン・ウォー監督の手腕が光る、ドシッとしたヒューマンドラマが映し出されるのだ。
●今、感じてほしい映画:戦火の広がるこの世界において、「カンダハル 突破せよ」は重要な意味を持った
普通の映画なら、なんとか脱出に成功してめでたしめでたしだが、本作はどうだろうか? トムとモーは脱出行の最中、全方位に濃密な死の匂いをかぎながら、「戦争はいつか終わるんだろうか」と独り言のようにつぶやく。続くセリフは「現代の戦争には勝利はない」。この応答が、今の世界には非常に重くのしかかる。
10月10日現在、イスラエル・パレスチナが戦争状態に突入してしまった。ウクライナはまだ戦火に包まれており、世界中のいたるところで惨劇が起きている。そうした現在において、「カンダハル 突破せよ」は重要な意味をもったように思える。
なぜならば、イランの核施設が爆破される迫力のショットも、「捕まれば拷問されて手足の爪を全部剥がされる」というセリフも、闇夜のヘリコプターとのバトルも、ラストシーンもすべて、観客に「なんのために戦うのか」と繰り返し、繰り返し問いかけているからだ。
トムとモハメドは劇中、失った者のために涙を流し、これから失うかもしれない者のために涙を流す。映画館で彼らの物語を体感したとき、あなたの胸にどんな感情が宿るだろうか。まさに今、観て、感じてほしい作品だ。