「中東紛争におけるCIAの実態」カンダハル 突破せよ 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
中東紛争におけるCIAの実態
驚くほど端々に《中東紛争の現実》が
生々しく描かれた映画だった。
原作が2016年6月、元軍情報部要員のミッチェル・ラフォーチュンが
執筆したオリジナル脚本『Burn Run』を原案にしている。
執筆者がアメリカ国防情報局で働いていた2013年に
アフガニスタンに派遣された経験を基にしている。
【あらすじ】
CIAの秘密工作員であるトム・ハリス(ジェラルド・バトラー)は、
イランで核の秘密地下施設の爆破に成功した。
捕らえられたCIA同僚のリークにより
トムは核施設爆破の張本人としてテレビニュースで
本名と顔写真が公開されてしまう。
それによって、公開のお尋ね者となり、
イランの特殊部隊、パキスタン軍特殊情報局(ISI)
そしてタリバンの息のかかったゲリラと、
金次第でどちらにも転がる武装集団・・・などに追われて、
トムと通訳のモーは果たして無事に
イランから460km離れたアフガニスタンにあるCIAの基地まで、
モーとともに30時間かけて走破して無事にアフガニスタンに
辿り着けるか?
それを現実に即してスリル満点で描いた映画である。
ともかく敵が多くて見分けが付かない。
はじめから最後までトムの車を追ってきた、
ヨーロッパ行きを夢見る《黒服黒ヘル黒バイクの若者》
・・・遂にその青年の夢を叶わなかったなぁ・・・
ご存知の通り、
アメリカ軍は2,021年8月30日アフガニスタンから撤退した。
実に20年間に及ぶ軍事作戦が終わった。
その作戦で平和がもたらせれたどころか
混迷を深めただけだとの説もある。
ひとつ疑問に思ったのは原案を書いたミッチェル・ラフォーチュンの
手記の意図するものは、
実は《内部告発》だったのではないのか?
トムは核施設爆破の任務のすぐ後にイランを去るよう
上司に指示されていた。
ところがアルバイト仕事を引き受けて出発を遅らせた。
トムの妻は17歳の娘アイダの卒業式に出席するように再三要求して
離婚を匂わせる。
ここでも長年のCIA任務が家庭生活と両立せず、
良き夫にも良き父親にもなれない現実が横たわる。
そしてアルバイトの報酬はドル札の束が3個で、
「君の娘のアイダは優秀だろ!この金があれば医大に進めさせられるぞ」
その言葉に惹かれたトムは、ちょこっとバイトしてから行くかと、
寄り道した結果イラン脱出が遅れたのだ。
この映画は端々に、
「アメリカが口出しすると事が複雑になるなぁ』
トムの妻は、
「一体いつまでCIAをやってるのよ、やめるやめると嘘ばっかり・・・」
そして一番興味深かったのは通訳モーとトムの関係だった。
通訳のモーは息子を武装集団に殺されており、
深い恨みを持っている。
トムはCIAとして活動するためには、
《アフガニスタン人通訳の存在は欠かせない》と語り、
モーとトムとに生まれる《友情の絆》が大きな見せ場となっている。
私は以前から感じていたのだが、紛争時に通訳するのは敵国人で、
通訳はある意味で特殊技能を持つ《裏切り者》という側面を持つ・・・
だから母国からも狙われて命を落とす危険性が常に付きまとうのでは
ないだろうか?
『戦場のメリークリスマス』では、アメリカ人通訳の立ち位置が、
とても分かりやすく描かれていた。
ジェラルド・バトラー主演で「エンド・オブ・ステイツ」
「グリーンランド-地球最後の2日間ー」で2度のタッグを組んだ
リック・ローマン・ウォー監督の作品としてはやや地味めである。
イランはアフガニスタンやパキスタンと陸続きの隣国で
中東は紛争国が多く特にアフガニスタンは民族が一つに
まとまることがなくて、
常に大国の代理戦争の場となっている宿命の国だ。
この映画は最初の市場の喧騒を除くと、ほぼ何もない砂漠地帯の平地で、
撮影している。
アラブの民族音楽をBGMに砂漠地帯の朝、昼、夜間が美しい。
夜間にヘリコプターの襲撃を受けたトムが暗闇を透視するゴーグルを
付けてヘリコプターを銃撃して撃ち落とすシーンは
この映画のハイライトだ。
イスラエルとパレスチナのハマスとの戦いが
混迷を極めている現在。
紛争地帯の現実を生々しく描いたこの映画は、
心に刺さるものが多々あった。
そして穿った意見で賛否あると思うが、
紛争地帯で戦争をビジネス(生業)として生きている多くの人間たち。
戦争を経済的景気浮揚の一端としている大国。
戦争=民族紛争の原因は宗教のいがみあいにあり、また反面
経済的側面からも戦争は必要とされ、
決して無くなる事はないのかも知れない。