劇場公開日 2023年10月20日

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「アメリカの原罪」キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン ココヤシさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0アメリカの原罪

2023年10月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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第一次世界大戦から復員したアーネスト・バークハート(レオナルド・ディカプリオ)は、叔父でオクラホマ州オーセージ郡の牧場主のウィリアム・「キング」・ヘイル(ロバート・デ・ニーロ)を頼る。
オーセージ郡はインディアンのオーセージ族の土地。オーセージ族は故郷カンザス州を追われてオクラホマ州の荒れ地に居留させられたが、のちにそこで石油が採掘されて世界でもっとも裕福な部族になった。オーセージ族の血を引いていれば「受益権」を持つことができ、このため財産目当てでオーセージ族の娘に言い寄る不良白人が後を絶たなかった。白人と結婚したオーセージ族の人間が不審死を遂げる事件も多発したが、警察当局はまったく捜査に動かなかった。
キングに運転手の仕事を斡旋されたアーネストは、客として乗せたオーセージ族の娘モーリー・カイル(リリー・グラッドストーン)に惹かれる。キングの勧めもあってモーリーと結婚し、子供をもうける。だが一方で、キングの指示でモーリーの姉妹の殺害に手を貸す。
モーリーは糖尿病の治療のために、キングが特別に取り寄せたというインシュリンを注射されるが、にもかかわらずどんどん衰弱していく。インシュリンに不信を抱くが、アーネストを信じたい気持ちもあり、注射を受け入れてしまう。
姉妹の死に疑念を募らせて私立探偵を雇うが、この探偵もキングの手下に暴行されて手を引いてしまう。また、オーセージ族評議会がワシントンに弁護士を送って大統領に直訴しようとするが、この弁護士も殺害されてしまう。
業を煮やしたモーリーは自ら病身を押してワシントンに赴き、大統領に窮状を訴える。FBIの前身である司法省捜査局のトム・ホワイト捜査官(ジェシー・プレモンス)が派遣されてきて、ようやく捜査が動き出す――といったストーリー。
本作はほぼ実話に基づいているとか。すくなくとも60人のオーセージ族が殺害されたけれど、実際の被害者はもっと多かっただろうという。だが、こうした黒歴史は、日本ではもちろん、アメリカ本国でも十分に知られているとはいえない。マーティン・スコセッシ監督の正義感がそれを許さなかったんだな。
アメリカの恥部の映画化にあたっては保守層の反発も予想されるから、スコセッシ監督も相当な覚悟を持って臨んだと想像できる。スコセッシ監督はオーセージ族の全面協力を得て現地ロケを行ったという。また、ディカプリオも最初はホワイト捜査官の役を提示されたけれど、それでは単にFBI捜査官を主役にしたヒーローものになってしまうとして、あえて汚れ役を引き受けたという。
ちなみにアメリカ原住民の悲劇は過去の話ではない。第二次世界大戦後ナヴァホ族の居留地でウラン鉱脈が見つかり、ナヴァホ族の男性は放射能の危険を知らされないまま鉱夫として働かされた。千人以上のナヴァホ族が肺癌で亡くなっている。

ココヤシ