「これが実話という悪夢」キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
これが実話という悪夢
レオナルド・ディカプリオ主演で見応えありそうな予告に惹かれて鑑賞してきました。上映時間206分という長尺作品ですが、その長さを感じさせないストーリー展開に引き込まれました。
ストーリーは、石油の採掘によって莫大な富を得たオクラホマ州の先住民オーセージ族の利権をめぐって群がる白人たちの中にあって、表向きはよき理解者として振る舞う“キング”と呼ばれる男と、彼の甥であり陰謀の手先として働かされる男・アーネストが、弱者を脅し、追いつめ、殺人事件までもを引き起こしていく姿を描くというもの。
全編にわたって醸し出されるアーネストのクズ感と、対照的なキングのしたたかな黒幕感。もうこの対比だけで食い入ってしまいます。そして、この二人が繰り広げる、石油の利権をめぐる数々の罠と脅迫と殺人。人の命の尊厳など1セントの価値もないと言わんばかりのやりたい放題。しかもこれが実話をベースに描かれているという驚愕の事実!人のあくなき欲望と底知れぬ闇をこれでもかと見せつけてきます。
起こした事件と関係者が多すぎて、終盤の裁判シーンで語られる殺人教唆のやり取りでは、もはや誰が誰をどうやって殺したのか覚えていられないほどでした。それでもストーリーから置いていかれたと感じなかったのは、一貫して利権をめぐる陰謀と妻モーリーへの愛の狭間で苦悩するアーネストの姿に重きをおいて描いていたためです。おかげで最後までことの成り行きを固唾を飲んで見守ることができました。ラストを朗読劇の形で締めていたのもおもしろく、さまざまな効果音の出し方も興味深かったです。
鑑賞後に知ったのですが、ディカプリオは初めにオファーのあった捜査官役を断ってアーネスト役を受けたそうです。それによって脚本は、オーセージ族の娘を愛しながらも犯罪に手を染めていく愚かな白人男性の物語に作り直されたそうです。おかげで、白人捜査官による事件解決ものという凡庸なサスペンスから、ノンフィクションの社会派サスペンスに生まれ変わったわけで、ディカプリオの慧眼には驚かされます。作中でも触れていましたが、当時はまともに捜査されない事件が他にも多くあったようです。これを機に、当時の先住民に対する差別や搾取についてもっと知りたくなりました。
主演はレオナルド・ディカプリオで、悩みながらも犯罪に加担していくアーネストを好演しています。他に、ロバート・デ・ニーロ、リリー・グラッドストーン、ジェシー・プレモンス、ブレンダン・ブレイザーらが脇を固めます。