「子守唄の魔法がかかる」オオカミの家 sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
子守唄の魔法がかかる
圧倒的な労力にクラクラきてしまう。
ストップモーションアニメなので、視点がちょっと移動していく場面でも、連続した塗り直しを余儀なくされている。おいおい、どんだけ時間かけてるんだよと想像すると、観ているだけで疲労がたまるが、刷毛の筆致や、絵の具が垂れていく跡を生かしたアナログな味わいは、素晴らしいし好み。
今作は、ピノチェト政権下のカルト的なドイツ人コミュニティを題材にしているとのことだが、冒頭の実写部分と、鉤十字から窓枠を描くという象徴的な表現が一回出てくるだけなので、ナチスうんぬんより、「コロニーは蜜の味」と感じてしまう支配層と被支配層の関係を普遍的に描いた作品という感じがした。
コミュニティの中でミスを犯した被支配者のマリアが、罰から逃れるために、他者の家に住み着いて、今度は自分が支配者になって3人だけのコミュニティをつくるという閉じた入れ子構造の連鎖は、案外、ありとあらゆる所で見られるのではないだろうか。
そうした連想を観る者の内側に生じさせるところが、この作品のアートとしての力強さだと思う。
また、この作品の決着が、マリアが自ら望んで被支配に戻るという所も象徴的で、「ソウルの春」に出てくる「人間という動物は、自分より強い誰かに導かれたいと願ってるんだ」というセリフを思い出した。
実は、かつて劇場で鑑賞したのだが、途中から爆睡してしまい、レビューを諦めていた作品。
今回YouTubeで無料公開との話を聞いて、リベンジした(2025.9.15)が、やっぱり眠気を誘われて、何度も見返す羽目になった。決して退屈な訳ではないのに、それこそ劇中の子守唄の歌詞の通り、目に砂をかけられているみたい。
皆さんはどうだったのかとても興味があります。