「貰った分しか与えられない」オオカミの家 ARSさんの映画レビュー(感想・評価)
貰った分しか与えられない
開始数分で鳥肌が立ちました。
私はストップモーションアニメを片手で足りる程しか観たことがなかったので、このような観せ方があるのかと。
公式HPも一切観ず、YouTubeの予告動画から予想していたテーマは三匹の子豚のみだったので観終わった後コロニア・ディグニダについて調べると、映画そのまま。事前知識があればより一層楽しめたのではないのか…否、後に視聴者がテーマの存在に気付き調べる事で知らなかった歴史や世界に触れる事は大事な良い機会だと思うのでNetflixのドラマなどを今後観る予定です。
まずコロニア・ディグニダ(WWII後にナチス残党がチリに作ったドイツ移民農場)について、これは先程述べたように観賞後に存在を知りました。
"尊厳のコロニー"まず名前がとても良い。
そのコロニーで崇めてる神の次に偉いのが少年に性的暴行を行うペドファイルであり、この作品内でマリアを探すオオカミ。
登場人物達の名前は監督お二人がカトリックのミッションスクール卒というのを考慮すると、
マリアはそのままイエスキリストの母。
ペドロは新約聖書の使徒ペトロ、岩の意、彼は天の国の鍵を持つ。
アナは悩んだけど内容を考えるとアナパブティスト(再洗礼)が由来なのかと。
マリア(イエスキリストの母)が新しく手に入れた家族/コミュニティが"天の国の鍵"と成人洗礼="自分の意思で決めた信仰"で成り立つとすると話は分かりやすい。
マリアはずっと閉鎖的コミュニティ/自分の意思を持てないコロニーで生活してきたので、外に出て新しい家を見つけ家族やコミュニティとなる豚達と出逢おうが"対等のコミニュケーション"は取れない。
生まれながらにしてコロニーで受けた経験が彼女に刷り込まれているから結局、支配されるかするかの二択。所謂、白雪姫症候群。
作中でもマリアは林檎食べてたし、少なからず意図してしているとは思う。
人間は経験した事しか出来ないし、他者からされた/貰った事(愛情や憎悪などの感情を伴う行為や言動)しかその他の誰かに与える/施す事は出来ない。
だからマリアは外(オオカミ)への恐怖心を煽りペドロとアナを支配し、家に閉じ込め、時に蜜(薬物)を使用し自分に従わせた。
コロニーでマリアがオオカミにされたこと、そっくりそのまま。
"愛"とは"親"とはなんなのか分からない。彼女は支配しかされた事がないから支配しか出来ない。
豚達の親になりたいけれども"無償の愛"というモノを知らないので言葉や所作を教えても一切身にならない事に、見た目に、行動一つ一つに、マリアは次第に苛立ちを募らせる。
全て真似事でしかないけれど、マリアはそうされた事しかないから仕方ない。
"天の国の鍵=マリアが作る新しいコロニー/居場所"であり"自分で選んだ信仰=マリア自身が教祖/親"となるはずだった1人と2匹の生活はそう上手いようには行かない。
だってペドロとアナはヘンゼルとグレーテルだったんだもん。
だからこそ後半で豚達の明らかな反発反抗に対しマリアのなんとも言えない反応は観ていて面白かった。経験した事ないことに遭遇すると唖然とするしかないよね、分かる。
声を振り絞りオオカミさんにドイツ語で助けを求めるマリア…なんて滑稽!まあでもこれが貴女の"再洗礼"ですね。自分で選んでるし。
オオカミさんはその点、沢山経験されているでしょうからマリアを最後の最後まで助けてくれるし超優しい〜!
一回脱走してても再び迎入れる懐の深さ、宗教やカルトの長の有るべき姿をしていて理想of理想。愛とは赦すことですからね。
あと作中に散りばめられた不安を煽る要素、最初から飛ばし過ぎでは?
・ナチスを表す十字
・マリア自身の姿→精神的な不安が本人の身体の形に現れる=ずっと定まらない、
・壁に映されるオオカミの目、声のトーン、話す内容など
・家の形の鳥籠、黄色の鳥
・読み聞かせの本の内容
・蜜→コロニー在籍時の洗脳のために使用されていた薬物
・蜜を塗ったり飲ませた後の豚達の容姿の変化→自分の思い描いた通りになる=洗脳成功の具現化?
・トイレに座るマリアに手が触れてくる→コロニー在籍時の性的虐待?
他にも沢山あったはずだけど思い出せないのがもどかしい。
最後に
「お前」って急に言ってくるオオカミさん。
そうでした、貴方がコロニーのお偉いさんでしたね。一応、プロパガンダのていで作ってる映像のラストでお前とか言っちゃうあたり最高です。
マリアを絶対に見捨てない、最後まで誠心誠意探し見つけ彼女に見合う労働も与えた旨、またペドロもアナも木になった=信者に迎え入れた意味だと思うので、そちらも重ねてとても素敵です。信者は多ければ多い程、良いですからね。
監督であるレオン&コシーニャのお二人は今作で初めて知りましたが、とても好きなテーマや世界観だったので過去作も、これからの作品も追えるよう常にアンテナを張りたいと思います。
円盤の発売が楽しみです。