「痛みがここに存在すること、ストップモーションでしか描くことのできない痛み」オオカミの家 おたけさんの映画レビュー(感想・評価)
痛みがここに存在すること、ストップモーションでしか描くことのできない痛み
本作に関する背景知識を持たずに映画を鑑賞。
はじめ映像の迫力に圧倒され、映画の世界観に釘付けに。
繰り返される印象的なモチーフ、トイレ、マリアの横で床に置かれた裸の男性の絵画などが引っかかりつつ、み進める。
中盤ほどから、胃のあたりから込み上げてきて、吐きそうな感覚になりつつ、時々目をつぶってなんとかやり過ごす。
気分が悪いのに、映画を観たい気持ちの方がまさる。
帰宅後、映画について調べてるうちに、この映画のテーマを知って、今回の映画体験を理解した。
元々画面が揺れ続ける作品を見ると酔ってしまう体質なので、鑑賞中はストップモーションの細かい揺れに酔っているのかと思っていた。
ただ、それ以上に、この映画のテーマを頭で理解できない状態であっても、身体はここで描かれるテーマを体感していたように思う。
鑑賞中、疑問に感じていたことのひとつに、絵や人形たちがなぜこれほどまで膨大な時間をかけて、描き直され、延々と作り直され続けるのか、と思っていた。
壁に描かれた絵が少しずつ動くが、描き進むだけでなく、描き進んだ分の絵が潰され、気が遠くなるほどの作業量が費やされる。
アニメーション自体時間のかかる作業だが普通もっと描くサイズは小さい。
これほど大きな壁を描くために使われた時間を考えると、気絶しそうになる。
どうしてこれほど膨大な作業量が必要だったのかという疑問は、映画のテーマを知り腑に落ちる。
映画のテーマである、ある"家"の人々が感じていたであろう時間の感覚が、一つの壁に何層も何層も塗り重ねられる絵の具と、散り散りに壊れ続け組み立ち切らない人形の欠片たちによって現されていた。
ここには、一度描かれた線が次の瞬間に綺麗さっぱり消えて滑らかに動くようなCGアニメーションでも、ある一人の演者が表情をつくることでも描くことのできない、この映画でしか描くことのできないものがあった。
ここで起きていたことがずっと残り続ける感覚と、無数の人びとの痛みが確かにここに存在すること。
そして、本作のテーマも、「チリという国で昔あった遠くの出来事」というテーマにとどまらないとも感じた。
ジャニーズ事務所という小さなコミュニティで起こり続けてきた性暴力。
そして統一教会というカルト宗教と政治の繋がり。
痛みに触れて、、、