「奇想天外なある女性の冒険譚に目を見張る。気になるところも。」哀れなるものたち mamiさんの映画レビュー(感想・評価)
奇想天外なある女性の冒険譚に目を見張る。気になるところも。
妊婦としてじさつしたベラ、その胎児の脳を移植され蘇生…ありえない物語を、ありえない美しさのエマ・ストーンが迫真の演技で演じることと、あまりにも美しく独特な美術と映像により不思議なリアル感を持ち、最後まで引き込まれた。
まずはよかったところ。
とにかく衣装・芸術が素晴らしい。ドレスやフリル好きなわたしには垂涎もののアートでかわいいドレスたち。めちゃくちゃおしゃれ。ボトムがショートパンツだったり、他にもボレロを脱いだらノースリのフリルシャツとロングスカートで成立するリアルなコーデのかわいさもあり…最高。
R18、SEXシーンは多いけど、先入観のないベラのおかげか?どこかあっけらかんとした感じ。それよりグロはわたしはかなり無理なレベルでしたが、モノクロが多いのと、なんとなく来るぞ、とわかるので覚悟できた感じ。なので避けつつ見てました。動物に対しても割とひどいです(直接何かするシーンはないものの)
そして気になったというか、ひっかかったところ。
ペラが冒険の旅の途中、しばらく売春宿で売春をするというところ。
何も知らないベラなのだから、最初はそそのかされて紛れ込んでしまうのもわかる。でも続けますよね、醜悪で自己中な男客とのセックスを。女性の人生に性産業や性暴力が「女性の人生にはこういうことあるよねー」という感じで自然に組み込まれるのが苦手なんです。性産業の存在を否定するのではないし、それをそれとして描くならいいけど、「女性の人生において」そんな普遍的なものではないし、それなしでは成長できないなんてことはない。国立民俗博物館で「性差の日本史」展を観た時のことを思い出した。ジェンダーという観点から日本史を読み解くという興味深い展示だったのだが「女性史」の中に当たり前に遊郭についての展示が組み込まれていて、違和感を持った。もちろん遊郭が存在したことは女性にとっても無視できない史実であり、当時の風俗・文化としてわたしも興味がある。しかし「女性」の歴史として組み込まれていると「?」となる。ほとんどの女性は遊郭や売春とは無縁だったはずなのに?
今回の映画でも同じ思いを持った。
そして残念なのは結局ベラが愛あるセックスをする描写はないまま終わっていることと、最後まで結婚にこだわっていることだ。当初「管理者」側であったマックスが結婚相手であり、真実の愛であるのかも疑念が残る。結婚を否定するのも良くないけれど、ようやく本来の自由と知性を得て羽ばたけるはずのベラがやっぱり結婚を選ぶのはこのお話のエッセンスとしてはどうか?と思ったのも事実。
でも、誕生して男性からの束縛管理から解き放たれ、知性を得て、学問の道を選ぶに至り、その中で性への目覚め、妊娠、帝王切開、セックス、売春…と女性性に起こり得る様々な事柄を描きたかったのだとすればこれでよかったのかもですね。ならばやはり愛あるセックスをするベラも見たかった気持ち。
エマ・ストーンはもちろん、ウィレム・デフォー、マーク・ラファロたちの演技もものすごくて、ハルク大好きなのにラファロのこと嫌いになりそうなほど(笑)
ベラを「管理」するつもりだったバクスターもマックスもダンカンも、みんなベラにだし抜かれ自らを変化させざるを得なくなるのは本当に痛快。ときどき自慰すると話すおちゃめな老婦人もよかった。